【第52回】デタラメに騙されない
間違った情報に騙されるのは、騙されるほうが悪い。
のかもしれません。。
情報リテラシーという言葉を聞いたことがありますか?
「情報を自己の目的に適合するように使用できる能力」だそうです。
先日、運営者の個人ツイッターアカウントで運動選手を対象にアンケートを取らせていただいたところ、以下のような結果になりました。
競技選手(学生含む)の方への質問です。
普段、トレーニング、栄養、スポーツ医学などの知識はどこで手に入れますか?
回答と合わせて拡散していただけると助かります!
— 佐々部孝紀(Koki Sasabe) (@tyr7bbb) April 11, 2017
運動選手の半数近くが「主な情報源はインターネット、SNSである」という結果でした。(アンケートをとったのがツイッターだからというのもあるかもしれませんが)
みなさん、おそらくは「ネット上の情報は間違った情報である可能性が高い」というのは「知って」いると思います。(高校の情報の授業でも習いますもんね)
ただ、本当にそのことを「理解」している人は意外と少ないのではないでしょうか。
(たまに言ってしまっていませんか?「ネットに書いてあったもん」「〜〜さんのブログに書いてたから」って)
本日はネット、特にトレーニング系のブログ・記事を読むときに必ず知っておいたほうが良いことを紹介します。
その文章が伝えているのは【考え方】なのか【事実】なのか。
その文章を構成しているのが【考え方】なのか【事実】なのかということを考えて読んでみてください。
例えば、とあるアスリートが
「今年は○○を使った練習をしています。始めて2か月ですがいい感覚が掴めてきています!~~身体作りのために十分な睡眠、最低でも8時間以上は心がけています。~~~今シーズンは△△を考慮して練習、トレーニングを組んでいく予定です。」
みたいな記事を書いていた場合、文章の構成は以下のようになります。
○〇を使った練習でいい感覚がつかめてきている→【事実】
身体作りのためには十分な睡眠が必要→【事実】
練習、トレーニングの組み方→【考え方】
この考え方といった部分に関してはいろいろな意見があって良いと思います。色々な人の考え方を参考にして、自分なりの考えを確立していけば。
一方、この【事実】という部分の取り扱いには注意が必要です。
様々な事実
先述した
「○〇を使った練習でいい感覚がつかめてきている」といった事実は、《経験》と言われるものです。
一方、「身体作りのためには十分な睡眠が必要」といったものは、《常識》であり、《科学的データ》によって実証されているものでもあります(A.V.Nedeltcheva et al, 2010)。
しかし、その《常識》が新たな《科学的なデータ》によって否定されることもあります。
例えば、ひと昔前は一般的には「乳酸は疲労物質である」といったことは《常識》でしたが、近年では《科学的なデータ》によって否定されています。
また、インターネット上には事実と見せかけて、まったくの《デタラメ》が出回っていたりもします(例えば、筋トレをすると身体が固くなるとか)。
この事実のように書かれているものが、《常識》なのか《デタラメ》なのか、《経験》なのか《科学的なデータ》なのかを見分けられることは非常に重要です。
《デタラメ》のことを、さも《科学的なデータ》に基づいた事実のように書いてある記事もありますが、その判別はきちんと情報の出所が示してあるかによって、おおまかに見分けることができます。
《デタラメ》の場合は情報の出所が示してないことが多いです。(一方、情報の出所が示してあっても、その解釈がめちゃくちゃであったり、その情報の基がデタラメだったりする場合もありますが。。)
まずはこの《デタラメ》に騙されないこと。その次は《経験》と《科学的なデータ》をうまく解釈することが重要です。
当サイトのトップページで示している通り、トレーニングの実践・指導において、《経験》と《科学的なデータ》はどちらも重要なものです。
しかし、この2つは本質的には同じものであると考えられます。
科学的なデータというのは複数の被験者に対する実験や観察研究によって得られたデータのことで、多くの場合そられを統計学的に分析することで、
「よし、この実験(トレーニング)は統計学的に見ても多くの人にとって有効だぞ」と太鼓判を押すことが多いです。
一方経験というのは、統計解析をしていない、被験者数が1の実験のようなものです。
要するに、「何かを行った結果、得られたもの」という点では、「経験」も「科学的なデータ」も同じものだということです。
経験の特徴
経験というのは、自分自身がアウトプットを行った結果がインプットとして帰ってきます。そのため、記事の執筆者自身がアウトプットをしたものになりますので、発信するときにはある種の説得力を伴います。
一方、被験者数が1なので、その方法がその人にたまたま合っていただけで、他の人がマネをしても同様の結果が得られないことは大いに考えられますし、同時期に行っていた別の行動(例えば、そのタイミングでたまたま食事の内容が大きく変わった)が結果に好影響を与えた可能性も考えられます。
科学的なデータの特徴
科学的なデータというのは、複数の被験者を用いて、なおかつ結果を統計的に解析する(その結果が偶然ではないということを裏付ける)ので、その被験者と似たような特性をもつ人に対しては高い確率で効果が期待できます。
しかしながらいくら科学的なデータの検証方法(トレーニングの介入方法)が特殊なもので、一般的な応用が難しい場合もあります。
また、科学的なデータとしてまだ実証されていないこと(実際に科学的に実験を行うと結果が得られること)を、先にその道のエキスパート達が経験的に理解しているという事例もありえます。
まとめ
このサイトの記事は《デタラメ》は伝えていないつもりです。
しかし《科学的なデータ》の紹介も、その一部しか紹介できていなかったり、執筆者の《考え方》というフィルターを通しての紹介になってしまっているかもしれません。
そのようなフィルターをできるだけ減らすために、当サイトでは論文の要約の紹介(こちら)や、ご自身での研究の探し方(こちら)も紹介しています。
トレーニング系のブログ・記事を読む際には、まずは《デタラメ》に騙されないようにしましょう。
そしてその中で紹介してあることが《考え方》なのか、《経験》なのか《科学的なデータ》なのかを判別し、頭の中にフォルダ分けしながら受け入れていきましょう。
間違った情報に騙されるのは、騙されるほうが悪い。
のかもしれませんしね。
参考文献
Insufficient sleep undermines dietary efforts to reduce adiposity
Arlet V. Nedeltcheva, MD1, Jennifer M. Kilkus, MS2, Jacqueline Imperial, RN2, Dale A. Schoeller, PhD3, and Plamen D. Penev, MD, PhD
Ann Intern Med . 2010 October 5; 153(7): 435–441