【第41回】持久力トレーニングは筋力向上を阻害する
バスケ、サッカー、テニス、ラグビー、、多くのスポーツは「筋力」と「持久力」両方の要素が必要になりますよね。
専門家の間ではもはや常識となっている「持久力トレーニングは筋力トレーニングの効果を阻害する」ということ。
未だに一般の方々の間では知られていないことかもしれません。
先日TV番組でダルビッシュ選手が、走り込み不要論を唱えたのも、上記の理由によるところが大きいと思います。
だって野球に必要なのは明らかに筋力・パワー>持久力ですもんね。
本日は持久力トレーニングと筋力トレーニングを同時に行った場合(Concurrent Training)の筋機能向上への阻害効果についてのレビュー論文を引用しながら上記のことについて述べていこうと思います。
※レビュー論文・・・様々な論文の結果を統合し、現在の科学的知見をまとめた論文
CONCURRENT TRAINING: AMETA-ANALYSIS EXAMINING INTERFERENCE OF AEROBIC AND RESISTANCE EXERCISES
JACOB M. WILSON et al, 2012
筋トレの目的
まず最初に、筋トレ(レジスタンストレーニング)の目的は下の図に表される「筋肥大」「最大筋力の向上」「パワーの向上」です。
・まずは「筋力の源」である筋肉を大きくする(筋肥大)
・人間の出す唯一の「力」である筋力の向上
・「力×速度」であるパワーの向上
それらに加えて、競技に必要なトレーニング(ジャンプ、ダッシュ等)をすることで競技に必要な体力(スピード、ジャンプ力、アジリティ等)が向上します。
そして持久力トレーニングは、その3つ(筋肥大、最大筋力向上、パワー向上)を阻害するというのが上記の論文で示されています。
持久力トレーニングの、筋機能向上への阻害効果
以下が論文内で示されている結果です。
Effect size | 筋トレのみ | 筋トレ+持久力トレ |
筋肥大 | 1.23 | 0.85 |
最大筋力 | 1.76 | 1.44 |
パワー | 0.91 | 0.55 |
数値はEffect Size(ES)というもので、この数値が高いほど効果が高いということです。
0だと効果なしで、0.5を超えたら十分効果あり、1を超えるとなかなかですね。
図の筋トレのみ、筋トレ+持久力トレのESを見ると、どちらも十分効果はあるものの、筋トレのみのほうが効果は高いですね。
このデータは様々な研究を統合したデータですので、持久力トレーニングは筋肥大、最大筋力向上、パワー向上を妨げる(特にパワー?)というのは断言してもいいでしょう。
特にどのような持久力トレーニングが筋力、パワーの向上を妨げるか?
実施頻度、実施時間
まず実施頻度(週に何回行うか)、実施時間(1回あたり何分行うか)についてですが、
これは実施頻度、実施時間とも多い、長いほど筋肥大、最大筋力向上、パワー向上を妨げるようです。
このことから、筋力やパワーが必要な選手はなるべく短時間で行えるような持久力トレーニング(HIIT:高強度インターバルトレーニング)を採用したほうが良いのかもしれませんね。HIITについてもまたいずれ。
運動の種類
このレビュー論文内では、バイクでの持久力トレーニングと、ランニングでの持久力トレーニングでの阻害効果の比較もなされていました。
以下が論文内の図を翻訳したものです。
(JACOB M. WILSON et al, 2012より)
最大筋力向上、パワーの向上に関しては、ランニングにしろバイクにしろ、同様に向上を妨げるようです。
一方、筋肥大に関しては、バイクよりもランニングのほうが阻害効果が大きいようです。
これは筋の収縮様式の違いによるものだと考えられます。
ランニングにおいては「接地」という局面があるため、そこでのエキセントリック収縮(衝撃を吸収するような収縮)が行われます。
一方、バイクでは衝撃を吸収するような収縮はなされず、常にペダルを押し続けます。(コンセントリック収縮)
実はこのエキセントリック収縮は、その収縮速度が速いほど筋肉を分解するタンパク質が多く発生することが明らかとなっています。(Ochi et al, 2010)
ランニングでのエキセントリック収縮は、スクワット等の下降局面と比べると明らかにスピードが速いですよね。
そのような収縮が繰り返されると、筋のダメージも大きくなり、筋分解のタンパク質の発生も重なって筋肥大を阻害するものと考えられます。
まとめ
しかしながら最初にも述べたように、筋力・パワーと、持久力、両方が必要なスポーツというのは多くあります。
それに筋トレによって筋肥大をしすぎると、持久力の指標である体重あたりのVO2Max(最大酸素摂取量/体重)の低下にもつながります。(こちら)
(VO2Max=持久力ではないので注意してください。これはまた次回)
大事なのは、各運動のプラスの面とマイナスの面をきちんと把握しておくことです。
では!
参考文献
JACOB M. WILSON, PEDRO J. MARIN, MATTHEW R. RHEA, STEPHANIE M.C. WILSON, JEREMY P. LOENNEKE, AND JODY C. ANDERSON
CONCURRENT TRAINING: AMETA-ANALYSIS EXAMINING INTERFERENCE OF AEROBIC AND RESISTANCE EXERCISES
Journal of Strength and Conditioning Research, 2012, 26(8):2293-2308
Eisuke Ochi, Tatsuro Hirose, Kenji Hiranuma, Seok-Ki Min, Naokata Ishii, and Koichi Nakazato
Elevation of myostatin and FOXOs in prolonged muscular impairment induced by eccentric contractions in rat medial gastrocnemius muscle
J Appl Physiol 108: 306–313, 2010
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