【第40回】持久力を鍛えたいなら上り坂?下り坂?
最近は科学技術も発達してて、加速度計で挙上速度を測ったり、スマホアプリでクイックリフトのときのバーの軌道が追えたりできるみたいです。すごいですよね。
トレッドミル、バイクなんてのも当たり前に使ってますが、あれも心拍数のモニターができたり負荷・回転数を操作して負荷設定ができてすごく便利ですよね。
ただ、合宿先が山奥の宿泊上で、そこにトレーニング機材がないなんてことは良くあります。場合によってはバーベル、ダンベルすらないことも。
そんなとき、トレーニング科学の知識とちょっとした発想力があれば、大自然の中でも科学的なトレーニングが可能になります。
極論、トレーニングなんてものは、地面と重力があれば実施可能です。
本日は遠征先(特に山間部)でのトレーニング「持久力編」です。
坂ダッシュ、坂ラン
山間部での合宿といえばこれ!と言うくらい、必ずやりますよね。坂道ダッシュ、坂ラン。
スプリントの加速能力向上のためのトレーニングとして、軽勾配の上り坂ダッシュが行われることもありますが、今回の記事は「持久力トレーニングとしての坂道ラン」について書いていきます。
山間部での持久力トレーニングといえば、上り下りの起伏が激しいところを数分~数十分走るようなものがよく行われていますよね。
これらのトレーニングの問題点は、先ほども述べた通りトレーニングを実施する場所の「上り下りの起伏が激しい」ということ。
何も考えずにただやってると下肢の障害のリスクが高まります。
しかしながらきちんとした知識をもって行えば「上り下りの起伏の激しさ」はトレーニングを行ううえで味方にもなってくれます。
筋の収縮様式が心肺機能に及ぼす影響
少し話は反れますが、筋の収縮様式にはコンセントリック、アイソメトリック、エキセントリックというものがあります。
上記の図のような例が挙げられるのですが、他にもスクワットの場合は重りを上げるときがコンセントリック、降ろすときがエキセントリックです。
実はこの筋肉の異なる収縮様式に対して、心肺機能は異なった反応を示します。
Vallejoら(2006)によると、コンセントリックのみのスクワットとエキセントリックのみのスクワットを比べたときに、コンセントリックのみのスクワットにおいて心拍数が高くなることが示されています(コンセントリック:116回/分, エキセントリック:98回/分)。
少し理解しづらい感覚かもしれませんが、重りを上げていようが下していようが、重りが一定の速度で動いていれば発揮している力は同じです。
つまりこの差は発揮している力の違いではなく、収縮様式の違いによるものと考えられます。
持久力トレーニングではいかに心拍数を上げるかということがキーとなるので、コンセントリック収縮を用いるトレーニングのほうが持久力トレーニングには適していると考えられます。
そして坂道でのランニングについても考えると、
上り坂ではコンセントリック収縮がメイン
下り坂ではエキセントリック収縮がメイン
です。
実際に、上り坂のほうが下り坂よりも多くのエネルギー(酸素消費)が必要であるという研究(Minetti et al, 2001)もされていることから、
持久力トレーニングを行うなら上り坂のほうが適している。と考えられます。
下り坂のトレーニングの注意点
さらに、下り坂でのトレーニングのデメリットとして、「関節への負担」というものが考えられます。
上り下りを含むコースで、選手にタイム設定などの基準を設けると、「楽な下り坂でいかにスピードを上げてタイムを縮めるか」という発想になることが考えられます。
その結果、膝関節、足関節に大きな接地の衝撃が繰り返され、下肢の慢性障害につながる可能性が大いに考えられます。
一方、上り坂の場合は比較的接地の衝撃は少なくなると考えられるので、全力で走ったとしても関節への負担は比較的小さくなると考えられます。
トレーニングへの応用
以上のことを整理すると、上り坂、下り坂の特徴の比較は以下のようになります。
チームの合宿等で練習場の時間が限られており、持久力トレーニングセッションを屋外で行わなければいけないとき等は、いい具合の坂を探してきて、
上りはダッシュ⇔下りは歩き
それぞれタイム設定を行って、10~20分程度のメニューを組むことが僕は多いです。
こうすれば、関節には優しく、心拍数は上げられますからね。
まあ結果的に、きつさも伴っちゃうんですけど。笑
参考文献
ALBERTO F. VALLEJO, EDWARD T. SCHROEDER, LING ZHENG, NICOLE E. JENSKY, FRED R. SATTLER
Cardiopulmonary responses to eccentric and concentric resistance exercise in older adults. Age and Ageing 2006; 35: 291–297
ALBERTO E. MINETTI, CHRISTIAN MOIA, GIULIO S. ROI, DAVIDE SUSTA, AND GUIDO FERRETTI
Energy cost of walking and running at extreme uphill and downhill slopes. J Appl Physiol 93: 1039–1046, 2002
スクワットのコンセントリック収縮のほうが心拍数が上がったのは、上げる時のほうが腹圧が必要で腹部に負荷がかかるからのような気がしますが、腹圧に関係ないエキセントリックとコンセントリックで心拍数の違ったデータはありますか?
コメントありがとうございます。
私はそのようなデータは見たことがないですね。
こちらで論文の探したを紹介していますので、是非探してみてください。
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