【第35回】AT目線、S&C目線
トレーナーという職業は、実は幅広い複数の専門職の総称で、実際にはもう少し職種が細分化されます。その中で複数の資格を保持し、複数の職域で活動している方も多くいます。
僕はAT(アスレティックトレーナー)とS&C(ストレングス&コンディショニングコーチ)と
2つの専門領域で活動しています。
それぞれの担当する領域のつながりはこのイメージです。
この図の通り、ATは怪我をして練習を離脱している選手と関わることが多く、S&Cは怪我をしていない選手のレベルアップに関わることが多いです。
(もちろんATが元気な選手に関わることもありますし、S&Cが怪我人のトレーニングを行うこともありますが)
また、その他の業務も箇条書きにすると
ATとして
・スポーツ現場での応急処置
・試合に向けてのコンディショニング(ピーキング)
・アスリハ(怪我をした選手の復帰のサポート)
・テーピング
・傷害予防
S&Cとして
・選手の体力向上(ウエイトトレーニング中心に)
・試合に向けてのコンディショニング(ピーキング)
・傷害予防
こんな感じです。
(体力向上とコンディショニングは分けて書くものでもないですが。。後述)
このように別々の仕事を分担しながらも、一部の業務(コンディショニングや傷害予防)は両者が行う形になります。
しかしATとS&Cでは、同じ目的をもっていても、行うアプローチの軸は違うことが多い気がします。
(本日の記事は佐々部の主観がめちゃくちゃ入ってくるのであらかじめご容赦ください)
傷害予防の考え方
スポーツ傷害は、慢性障害(オスグッドや腰痛など)と急性外傷(捻挫や肉離れ、前十字靭帯損傷など)に分けられます。
これらの傷害は、どちらも間違った身体の使い方(ミスユース)や、練習のしすぎ(オーバーユース)に、身体が耐え切れなくて怪我をしてしまいます。
※コンタクトの急性外傷(打撲)などはここには当てはまらないこともあります。
ここで傷害を予防しようとしたとき、専門領域によってアプローチする方法が違ってきます。
AT目線
ミスユースが傷害につながるから、その動きをしないようにしよう!
特定の筋肉の機能不全と傷害の関連性が報告されているからその筋肉をあらかじめ使えるようにしとこう!
(例)
・前十字靭帯損傷⇐膝が内側に入る動作
・捻挫⇐外側荷重
・腰痛⇐腹横筋機能不全?
このようなミスユースや機能不全といった、「マイナス」の要素を0にしようとすることが多いです。
ATだけでなく、PT(理学療法士)の方もこのようなアプローチをとる傾向にあります。
S&C目線
身体の組織が弱いと傷害につながるから、怪我をしない強い身体を作ろう!
(例)
レジスタンストレーニング(筋トレ)による
・筋、腱の強化
・関節の強化
・柔軟性の獲得
このような身体の機能の強化といったような、「プラス」の要素をさらに強化することが多いです。
※もちろん、レジスタンストレーニングで基本的動作のミスユースの改善は可能です
パフォーマンス向上(コンディショニング)の考え方
選手のコンディショニングというのは、ざっくりいうと
体力(プラス)
と
疲労(マイナス)
で決まります。
また、怪我という(マイナスの)要素や、栄養状態(プラス?)も重要になってきます。
AT目線
コンディションの制限になるものを取り除いて本来のパフォーマンスを発揮できるようにしよう!
怪我から復帰したての選手は、筋力に左右差があったり、使いづらくなっている筋肉があります。
そのようなマイナスの要素を改善することでパフォーマンスが向上することは容易に想像できます。
一方、怪我をしていない選手も、なんらかの怪我のリスク(柔軟性不足、筋力等の左右差等、基本的な動作パターンの破たん)を持っている場合もあります。
そのようなリスク(隠れたマイナスの要素)を発見するために、シーズン頭に選手全員のメディカルチェックを行うことがあります。
ちなみに、少しATとは違いますが、治療家(鍼灸師等)の方などは、徒手療法(マッサージ)や物理療法(電気や超音波)を用いて選手の疲労(マイナス)を取り除くことでコンディションを向上させることができるのではないでしょうか。
S&C目線
試合に向けて疲労を最小限にしつつ本来のパフォーマンスそのものを向上させよう!
トレーニングを行わなかったら体力は低下するので、シーズン中も「向上」または「維持」のためのトレーニングは行うべきでしょう。
しかし年から年中「向上」のために追い込みをかけていては、体力の向上(プラス)は大きくなるのですが、疲労(マイナス)がそれ以上に大きくなってしまいます。
ときには体力を「維持」しながら疲労を抜くことでパフォーマンスを最大化することも必要になってきます。
そして試合期が終わったら次の試合期にむけてガンガン体力を向上させていきます。
どっちを優先すればいいの?
基本的にこれらのアプローチは両方とも傷害予防、パフォーマンスの向上(コンディショニング)には必要なものです。
ただ、たまーに、チームのメディカルスタッフ(ATや治療家、理学療法士)とS&Cで話が合わずに。。ってことも聞きます。
優秀なS&Cとメディカルスタッフがいれば、プラスを最大限にして、マイナスを最小限にできるはずです。
ただ、たまーに聞くのが
マイナスを大きくしてしまうS&C
(めちゃくちゃなフォームでトレーニングをやらせて、選手を怪我させてしまう)
プラスを阻害するメディカルスタッフ
(ウエイトすると身体が固くなるとか、動作の改善だけで体力が十分に向上するとか言って、ちゃんとしたトレーニングをやらせない)
普通に勉強して、お互いの仕事をリスペクトしてれば、こんなことは起こらないはずなんですけどね。。
“【第35回】AT目線、S&C目線” に対して4件のコメントがあります。