【第25回】筋量増加のデメリット~体重と最大酸素摂取量のトレードオフの関係~
「筋肉は増やせばいいってもんじゃないでしょ!動きとか悪くなるし!」
前半は賛成です。後半は何言ってるのかよく分かりません。
「棘上筋に比べて三角筋が発達しすぎると、上腕骨頭の上方変位が起こったりなど、正常な関節運動が破綻をきたす」とか具体的なことを言ってくれれば分かりますし、選手に合わせて分かりやすく言っているのならいいんです。
けどそう言う人はぼやっとイメージで言っていることも多いので、その場合はあんまり会話が成り立ちません。。。
てかそもそも棘上筋(俗にいう肩のいんなーまっする)も筋トレで鍛えられますよね。
さて、話が反れましたが本題です。
今までの記事で、各体力を向上させるにはレジスタンストレーニング(筋トレ)による筋量の向上がベースとして必要だと述べてきました。
しかし場合によってはその筋量の増加(筋力ではなく筋量)がパフォーマンスに悪影響を及ぼす場合もあります。
ただ、その理由をはき違えちゃったらよくわかんないことになっちゃうのできちんと論理的に理解するのが大事です。
今のところ僕が考える筋量増加のデメリットは
最大酸素摂取量(VO2Max)の低下
これです。
他には大胸筋が発達し過ぎての軟部組織同士の衝突による水平屈曲制限とかも考えられますが、そんなに発達することは競技練習しながらのウエイトトレーニングだと滅多にないし、そもそもその可動域制限がそんなに不利益か?と思うので割愛します。
また芸術系競技や跳躍系競技は今回の議論から省きます。
僕が今現在見ている球技系競技においては、今のところ最大酸素摂取量の低下以外のデメリットは見受けられません。
筋肥大が最大酸素摂取量に与える影響
一般的な持久力の指標として、最大酸素摂取量(VO2Max)というものがよく用いられます。
数値でいうと、「一分間にどれだけの酸素を身体に取り込めるか」を表す○○ml/min(分)という単位が用いられることもありますが、
それよりも「体重1kgに対して一分間にどれだけの酸素を身体に取り込めるか」を表す○○ml/kg/minのほうが一般的ですし実用的です。
だって同じ心肺機能だったら、酸素を行きわたらせる範囲が小さい(体重が軽い)ほうが有利ですもんね。
ということは、筋肉が大きくなってしまい、心肺機能がそのままだと、理論的には最大酸素摂取量が低下してしまうことが考えられます。
実際にそのことについて検討した研究もあり、McDougall ら(1978)は6週間のウエイトトレーニングを行い、筋肥大が大きかった選手ほど(r=0.85) 筋肉内のミトコンドリア(酸素をエネルギーに変える細胞)の密度(量ではなく)が減少したと報告しています。
ただ、この研究では最大酸素摂取量ではなくミトコンドリア密度を見てるので、なんとも断言しがたいところはあります。
それを補足する情報になるんですけど、最近面白い事例研究を読んだので紹介します。
(事例研究⇒複数の被験者で検討し、統計学的に分析したものではなく、1人や2人の変化を報告したもの。科学的な信頼性は低いですけど、たまーに面白いものもあります!)
THE EFFECTS OF DETRAINING ON AN ELITE POWER LIFTER
R.S.Staron et al (1981)
120㎏ほどあるパワーリフターが対象で、7か月間ウエイトトレーニングを行わなかったらどうなるか
という研究です。
よく引き受けてくれたな(笑)と思います。まあこんな研究なので被験者数が1人なんでしょうけど。
結果
体重
121.5㎏⇒95kg
最大酸素摂取量(ml/min/kg)
32.6⇒49.1
筋に対するミトコンドリア密度
1.76%→2.46%(FT)
3.04%→4.41%(ST)
という持久力トレーニングを行っていないにも関わらず持久力の1つの指標であるVO2Maxが向上するという結果になりました。
まあ被験者が極端に筋量が多く半年以上という長い期間での例ですので、そのへんの人が筋トレをやめただけでこんなにVO2Maxは向上しないと思いますけど。
持久力トレーニングが筋肥大に与える影響
持久力トレーニングは筋の異化(分解)を促し、筋肥大を阻害するというのは有名な話ですよね。
解説すると長くなるのでおすすめのレビュー論文だけあげときます。
CONCURRENT TRAINING: AMETA-ANALYSIS EXAMINING INTERFERENCE OF AEROBIC AND RESISTANCE EXERCISE
JACOB M. WILSON et al, 2012
Journal of Strength and Conditioning Research 26(8)/2293–2307
まとめ
筋肥大を目的としたウエイトトレーニングと、有酸素的なエクササイズ(高強度インターバルトレーニング(HIIT)は除く)にはお互いに以下のような関係があります。
持久系トレーニングを行うと
・最大酸素摂取量の向上(持久力)↑↑
・筋量の減少↓
が起こる
筋肥大を目的としたウエイトトレーニング(高rep:10回×3~5とか)を行うと
・最大酸素摂取量の低下↓
・筋量の増加↑↑
が起こる
というふうに、お互いに相反する効果があると考えられます。
ただ、以下のことには注意してほしいです。
・最大酸素摂取量=持久力というわけではない(第5回)
・多くのアスリートは最大酸素摂取量の低下を気にするほどの筋量の増加がそもそもできてないので、最初は持久力の低下は気にしすぎなくていいと思います。(もちろん、ウエイトによる一時的なパフォーマンスの低下は起こりえます 第24回)
・お互いに効果をまったく打ち消すというわけではなく、効果を阻害するということ(なので図でも↑と↓の大きさを変えています)
・あくまでもHIITを除く持久力トレーニングと、筋肥大を目的としたウエイトトレーニングの話
「筋肉は増やせばいいってもんじゃないでしょ!」
確かにその通りなんですけど、多くのアスリートは【増やし過ぎ】の段階には至っていないのが現状なのかなと思います。
また競技ごとの適正体重について詳しく書いていければ!
参考文献
Mitochondrial volume density in human skeletal muscle following heavy resistance training
McDougall JD et al, 1979
Medicine and Science in Sports 11(2):164-166
THE EFFECTS OF DETRAINING ON AN ELITE POWER LIFTER
R.S.Staron et al. 1981
Journal of the Neurological Sciences, 51:247-257
ささべ、久しぶり〜!
ちょっと質問があるんだけど、高地(3700m)での筋肥大を目的としたウエイトトレーニングにおいて、注意点とか、効果の違いとかってある??
お!すぐるって大迫のすぐるかな?(^^)
それがちょっとややこしい問題でさ、高度や扱う負荷によって結果が変わってくるんよね~
ざっくりいうと酸素濃度80%の場合(高度でいうと2000mくらい?)だと筋肥大は促されて(A.Manimmanakorn et al,2013)、5000mくらいの高度(高山病のリスクが高い高度)だとむしろ阻害しちゃうってデータがあるんよね(Narici and Kaiser, 1995)。
ごめん、山村のすぐるだわ…
豊浦のやまぴーだよ!!
返信ありがと!
俺の場合は3700mで酸素濃度は約65%らしいけど、それやと阻害されそうやな
あと別の質問なんやけど、第8回の記事で「低強度運動は筋力、筋量、パワーの成長を阻害する」みたいなこと書いてあったやん?あれって、筋肉の部位によって、低強度運動と高強度運動に分ければ、問題なし?
っていうのも、たくましい胸筋を手に入れたい俺は、ずっとベンプレ(高強度運動)続けてきとったんやげど、それと同時に腹筋もバキバキにしたかったけ、ずっと体幹トレーニング(低強度運動)やっとったんよね。6種目ぐらいを1分ずつ。
でもこの記事読んでから、「もしや体幹トレーニングって、胸筋の肥大をそがいしてるんじゃね?」って思い出して、それからは体幹トレーニングはやめて、腹筋ローラーしかやらんようにしとったんよね。
でも、最近部位によって分ければやっぱ大丈夫なんかなとも思い始めてきて…
どうかな??
やまむーか!久しぶり!
阻害される酸素濃度としては、私生活を送るだけで筋の委縮が起きるようならNG。そうじゃなければ大丈夫かな。
逆にいい感じの低酸素濃度なら、加圧トレーニングみたいに低強度の筋トレでも筋肥大する可能性ありなんよね実は。
今度それも記事にするつもり!
筋肥大を阻害する低強度運動ってのは、ジョグとかバイクのことやから、腹筋は大丈夫よ!