【第181回】ノルディックハムストリングの測定値が肉離れの発生と関連が無かった理由~観察研究と介入研究を読むポイントから解説~
先日この研究をXに投稿したところ、多くの人からリアクションをいただきました。

最もエビデンスレベルが高いと言われるメタアナリシスという研究手法での結果ということもあり、一見「ノルディックハムは意味ないのか~」と思われるかもしれません。
一方で、こんな研究もあります↓

ノルディックハムストリングの介入によって、肉離れが半減したというメタアナリシスです。
(本筋とは関係ないですが、佐々部の研究紹介スライドの作成のクセがだいぶ変化していることに時の流れを感じます)
これらを総合的に考えると、ノルディックハムストリングは使える?使えない?の2択ではなく、
✓予防としては有効
✓リスクを抽出するためのスクリーニングとしては有用でない可能性あり?
という2つの考えが整理出来そうです。
測定方法の限界
まず解釈として重要なのが、今回は
『Opar ら(2021)のメタアナリシスでノルディックハムストリング中のピークフォースが肉離れの発生と関連がなかった』のであって、『ハムストリングの筋力は肉離れの発生に影響を与えない』とは言い切れないということです。
ノルディックハムストリングのピークフォース(≒エキセントリック筋力)は、ブレイクポイント付近で出現します(Nishida et al., 2022)。
ブレイクポイントとは、膝関節の伸展角速度が10°/秒を超える点、ざっくり言い換えると耐えられなくなって身体が急速に倒れ始めるポイントです。
一方である程度筋力レベルがあってノルディックハムストリングをやり込んだら、胸をつけて戻ってくるorそこまででなくてもブレイクポイントを出現させずに倒れ切ることが可能になります。
そのレベルの選手になると、さらに高いピークフォースを出すにはさらなる筋力の強化ではなく、測定で高いピークフォースを出せるような倒れ方が出来るかに依存してきます(例えば、合えて体幹部が水平に近づいたタイミングでブレイクポイントをあえて出し、その後にブレーキをかけるなど)。そのため、ある程度のレベル以上になると実際の筋力の大小が検知出来ない可能性が考えられます。
また、上記のOparら(2021)の研究紹介の図を見てもらったら分かる通り、『再発』に限定すると『初発』に比較して、やや受傷群と未受傷群の差が筋力においても左右差においても大きくなっているのが分かります。
95%CIが0をまたいでいるので有意な差とは言えませんが、肉離れ受傷後の左右差は戻しておくに越したことはありません。
介入研究と観察研究の違い
まず、介入研究と観察研究の違いを理解しましょう。

『★観察研究で関係性が認められたからといって、介入研究で効果があるとは限らない』とはよく耳にするかと思います。
例えば、バスケットボールを大学まで続けている人は一般の人よりも身長が高い傾向にあるという観察研究(横断研究)のデータがあったとしましょう。
ではバスケットボールをすると身長が高まるか?というと、そのデータだけでは判断出来ません。
それを検証するためには長期介入研究が必要になりますが、例えば40人クラスの半分20人には放課後バスケットボールをさせ、他の20人はそのまま家に帰すといった感じです。
ただ、その両群で身長の差が出ない可能性も大いにあります。横断研究の結果の原因が、背が高い人のほうがバスケットボールに有利だから高身長者が大学まで競技を続ける割合が高かっただけ、という可能性も大いに考えられるので。
逆に『★観察研究で関係性が認められなかったからといって、介入研究で効果がないとは限らない』
ということも言えます。
実際、冒頭2つ目に紹介したAttarら(2017)の研究では、ノルディックハムストリングの介入でハムストリングの肉離れは有意に減少しています。
そして、その予防効果は筋力向上という要素以外が貢献している可能性も考えられます。
Timminsら(2016)の研究ではシーズン最初にハムストリングの筋束長等を評価して肉離れの発生について追ったところ、シーズン中に肉離れを受傷した群のほうが有意に筋束長が短かったことを報告しています。(これは上記の研究の分類表の観察研究の前向きコホート研究にあたりますね)
また、Ribeiro-Alvaresら(2018)はノルディックハムストリングの4週間の介入でピークトルク(筋力)だけでなく、筋束長も向上したことを報告してます(これは長期介入研究ですね)。
そして冒頭2つ目で紹介したAttarら(2017)のメタアナリシスで採用されている研究は、ノルディックハムストリングの長期介入後に前向きコホートで肉離れの発生を追ったという複合的な研究になり、その研究たちを統合して分析した結果、肉離れの予防効果があったというものになります。
これらを総合的に考えると、ノルディックハムストリングのベースラインの筋力測定が有用でなかったとしても、ノルディックハムストリングの介入自体に意味がないわけではないということが分かると思います。
筋力というルートではなく筋束長というルートを通して貢献した可能性もありますし、筋力を通して貢献したんだけどノルディックハムストリングでの筋力測定だと正確に筋力を測定出来なかった可能性もあるからです。

まとめ
✓ノルディックハムストリングの長期介入には筋束長増大効果&筋力向上効果がある
✓ノルディックハムストリングの長期介入には肉離れ予防効果がある
✓ノルディックハムストリングで測定した筋力とシーズン中に発生した肉離れの発生率には関連がなかった
✓ノルディックハムストリングでの筋力測定は、特定の条件下では筋力を正確に表さない可能性もあり
当たり前の話ですが、肉離れ受傷後に可動域や筋力を戻していくというのは絶対必要になります。
今までの書きぶりでは、肉離れのリスク抽出としての筋力測定に関して僕は反対派のように思われるかもしれませんが、単純なYes、Noだけでこの議論を終わらせてしまうともったいないです。
個人的には筋力のベースラインを測定しておくことは、リスクの抽出だけでなく、受傷後の回復を見ることも出来るのでその点で非常に有用だと思います。
また、例えば先述したようなノルディックハムの測定の問題点を解決するように
・必ずブレイクポイントが出現するように、重りを保持してノルディックハムストリングを実施する
・ダイナモメーターや張力系を用いてノルディックハム以外の測定を採用する
といった代案も考えられるでしょう。
スポーツ現場での意思決定は1つの論文でおこなうことは不可能です。
複数の情報源から、チームスタッフでその中でのベストを選択し、実施&検証をおこない続けることが大切です○
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執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)
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