【第179回】無酸素運動と有酸素運動の境目は?
無酸素運動と有酸素運動の境目は?という記事を書いていこうと思うのですが、その表現自体がナンセンスだなと書き始めて一行目で気づきました。
正確には「無酸素エネルギーの貢献と有酸素エネルギーの貢献が逆転する運動時間はどれくらい?」が適切な表現ですね。
人間が運動する際に有酸素エネルギーと無酸素エネルギー(クレアチンリン酸系及び解糖系)が使われるのは周知の事実かと思いますが、運動の強度(スピードなど)が上がると無酸素エネルギーの貢献が高まります。
基本的には運動時間が短いほど強度が高まる(例:400m走よりも100m走のほうがスピードが速い)ので、全力で運動する場合、運動時間が長いほうが無酸素エネルギーの貢献が小さく、有酸素エネルギーの貢献は大きくなります。
また、ある点を境に有酸素運動100%から無酸素運動100%に切り替わるわけではなく、運動時間の増加に応じて徐々に有酸素エネルギーの貢献が大きくなります。
つまりこの競技は無酸素運動?有酸素運動?と考えるのではなく、無酸素エネルギーと有酸素エネルギーの割合はどのくらい?という考え方が適切ということになります。
今年、その答えの1つになる研究が発表されたので紹介します。
有酸素エネルギーと無酸素エネルギーの割合
Anaerobic and Aerobic Energy System Contribution During Maximal Exercise: A Systematic Review.
Gastin and Suppiah, 2026
Sports Medicine
この研究では最大強度での運動を実施した際の無酸素・有酸素エネルギーの貢献の比率について調べた研究を集めてレビューした研究になります。
球技スポーツやHIITのように、動いて休んでという運動形式の研究は除外し、陸上競技や水泳のように、スタートしたらゴールするまで休まずに動き続けるような運動に限定して研究を採用しています。
102件の研究が採用され、各運動時間でどのくらいのエネルギーの貢献割合なのかが算出されています。
その結果、運動時間が78.6秒を境に、それ以下だと無酸素エネルギーの貢献が大きく、それ以上の運動時間だと有酸素エネルギーの貢献が大きいという傾向が明らかとなりました。
またその他の時間での有酸素エネルギーの貢献の割合は
10秒→9%
30秒→25%
78.6秒→50%
180秒→72%
600秒→89%
といった結果も報告されており、運動様式(ランニングか自転車かなど)の影響はあまりないようです。
その結果と、各競技の日本記録の時間から、以下のような図を作成してみました。

陸上400m走や水泳自由形100mの場合、日本記録が40秒台なので、無酸素エネルギーの貢献が大きいようです。
一方で800m走や自由形200mになってくると、100秒を超えてくるため有酸素運動エネルギーの貢献が大きくなります。
クロスカントリーのスプリントは、「スプリント」という種目名ではあるものの、競技時間が3分前後になるようなので有酸素エネルギーの貢献が大きいと考えられます。
このデータの活かし方
上記の研究から、各競技に求められる有酸素エネルギーと無酸素エネルギーのおおまかな割合が明らかになりましたが、その活用方法には注意が必要です。
例えば、800m走にはより有酸素エネルギーが求められるので、無酸素エネルギーを出すためのトレーニングはあまりせずに、有酸素系のトレーニングに全振りしよう!という発想はナンセンスです。
もちろん、主のエネルギーである有酸素エネルギー生産能力の強化はマストですが、無酸素エネルギーが貢献しないというわけではありません。
そのため無酸素エネルギを生産するための基礎的なウエイトトレーニングや短い距離での練習も有効になり得るケースはあるでしょうし、そもそもウエイトトレーニングやプライオメトリクスのようなトレーニングには腱をうまく使えるようになる等のメカニズムを通して、ランニングエコノミーが向上する(≒省エネで走れる能力が上がる)効果も期待出来ます(Garcia-Pinillos et al., 2020; Berryman et al., 2018)。
あくまでも紹介した研究で分かった情報は「エネルギーの比率はこうだったよ」という情報だけで、その先のトレーニング戦略は、現時点でのその選手の能力の分析結果にも依存します。
例えば男子選手で腕振りなしのCMJを測定して30㎝という結果であれば、まだまだ伸びしろはたくさんあると考えられるので、持久系の競技であってもパワー系のトレーニングの恩恵は非常に大きいでしょう。
今回紹介した情報と、自身の現状の分析を合わせて、適切な戦略を組んでいってください!
執筆者:佐々部孝紀
新年度が始まってもう1か月ですね。
今年度も、早稲田大学(大学スポーツ科学部、高等学院保健体育)での教育活動、アルバルク東京(ユース兼トップチーム)、山梨学院大学男子バスケ部、陸上選手のトレーニングサポートは継続していきます!
他にも新たなチャレンジの場をいただけそうなので、選手たちの成長に貢献出来るよう頑張ります!

