【第176回】ウエイトトレーニングだけではパフォーマンスは上がらないので、○○をしっかりやろう!の落とし穴
「ウエイトトレーニングだけではパフォーマンスは上がらない!」
この考えには僕は賛成です。
僕らが「ウエイトトレーニングコーチ」ではなく「ストレングス&コンディショニングコーチ(S&Cコーチ)」を名乗っている理由もそこにあります。
ウエイトトレーニングに加えて競技練習を頑張るのはもちろんのこと
✓プライオメトリクス
✓スプリント・アジリティトレーニング
✓持久系トレーニング
✓ストレッチ
など、その選手のパフォーマンスを向上させるのに必要なアプローチは多岐に渡ります。
競技練習だけでは埋められない穴を埋めるたまにトレーニングが必要なのですが、そのトレーニングは大きく分けると
①筋が生み出すことの出来るエネルギーを高めるためのトレーニング
②競技練習だけでは習得しきれない基本的な身体の使い方を習得するトレーニング
の2つに大別できます。
①は例えば筋肥大、最大筋力向上、RFDやパワーの向上によって地面や物体(ボールやバット、相手選手)に加える力の土台を高めたり、心肺機能や抹消の代謝能力の向上によってエネルギーを供給し続ける能力のアップなどが挙げられます。
②についてはスプリントのフォーム改善、効率的なターン動作の獲得、安全なストップ動作の習得など、競技コーチだけでは補えきれていない部分があった場合に働きかけるスキル的なアプローチです。
①で獲得した能力を②に繋げて、それをさらに競技練習で発展させていくというイメージですね。
そしてトレーニングの専門家であれば①へのアプローチは必須です。ここを無視するというのは職務放棄にもあたるとすら考えられます。
「ウエイトトレーニングだけではパフォーマンスは上がらない!」の意味
冒頭でも述べた「ウエイトトレーニングだけではパフォーマンスは上がらない!」という主張についてですが、ウエイトトレーニングは上記の①のアプローチの一部分しか構成していません。
①筋が生み出すことの出来るエネルギーを高めるためのトレーニング
については競技によってはプライオメトリクスや持久系のトレーニングも必要ですし、そもそも安全にウエイトトレーニングを実施するための身体の機能が獲得出来ているかという点も重要です。
例えば
✓腹圧を高められる?
✓ヒップヒンジは出来る?
✓胸椎肩甲帯の可動性は?
✓足関節の可動域は?
✓足趾の機能は?
あたりですね。
そしてそれらの機能を獲得したうえでウエイトトレーニングによって筋力を伸ばしても、選手によってはスプリントスピードやアジリティ、競技パフォーマンスに繋がらないこともあります。
筋力を高めた後にはパワー発揮能力向上やフィールドでの基本的な身体の使い方のトレーニングが必要になります。
ここまで解説すると
「ウエイトトレーニングだけではパフォーマンスは上がらない!」
の意味は理解出来たかと思います。
ただしその言葉を筋力を高めない言い訳に使ってしまうと、質の低い指導に繋がってしまいます。
筋力を高められてない場合の逃げ道にしない!
まずはこの図をご覧ください。

もう言いたいことはこのスライド1枚にまとめました。
ウエイトトレーニングで筋力を高めたのにパフォーマンスに繋がっていないのであれば、その筋力をさらにパフォーマンスに転移させるアプローチが必要かもしれません。
一方でウエイトトレーニングを実施したのに筋力が上がっていないという状態であれば、そもそものウエイトトレーニングの内容や栄養・睡眠などの生活習慣を見直すのが先かと思います。
そもそも測定すらしていないというのはトレーニング指導者としての職務を全う出来ていません。
とはいえ「指導現場にバーベルがなくて」「バーベルはあるけどセーフティーバーがないので安全に測定が出来ない」といったケースもあるかと思います。
その場合は立ち幅跳びの測定がおすすめです。
厳密にいうと立ち幅跳びは筋力の測定ではなく筋パワー発揮能力を反映した指標になりますが、筋力トレーニングと並行してプライオメトリクスなども適切に実施出来ていれば
✓立ち幅跳びの数値の向上
もしくは
✓体重を増加しながら立ち幅跳びの数値を維持
のどちらかは達成出来るかと思います。
またチームからのオーダーで、そのような基礎的な筋力・パワーのトレーニングではなくスプリントやアジリティの能力を高めるためのスキル的なトレーニングを介入しているというケースであれば、スプリントやアジリティのタイムをストップウォッチで測定すれば良いですよね。
とにかく今回伝えたいのは「数字から逃げていてはトレーニング指導者としての職務を全うできない」ということ。
測定をするというのはその瞬間に我々に責任が発生します。もちろん数値が向上しないケースもあります。
ただ、自分の指導に自信が持てずにそもそも測定をしない。ふわっとした主観で自分の仕事の成果を主張しようとする。そういった指導だとチームの信頼を得るのは難しいです。
「より競技に近いトレーニング」というのは耳障りは良いかもしれませんが、裏を返せば競技に近づいた分トレーニング指導の専門性とは離れていってしまいます。
今回の記事は特に若手のS&Cコーチや、トレーニング指導も担っていきたいというATの方々に届いて欲しいです!
執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)
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