【第173回】有酸素持久力向上は回復力UPに繋がる?

マラソン、クロスカントリースキー、ロードバイク、これらの種目に持久力が必要なのは誰がどう見ても明らかでしょう。

一方で多くのチームスポーツ(バスケ、ラグビー、サッカーなど)はマラソンと違って、プレー中も休める局面が存在します。

しかし数十分間の試合時間の中で疲労が溜まってきてしまうと、後半にかけて徐々にパフォーマンスが落ちてしまいますよね。

また、サッカーに関しては毎週、バスケットボールに関しては1週間に2-3試合あるなんてこともザラです。

そう考えると、これらのスポーツにおいては

①試合後半もパフォーマンスを維持するために、短いレストで回復し続ける能力

②試合と試合の間でしっかりと回復出来る能力

といった2種類の回復力が重要だと考えられます。

この回復力を高める、回復を促進する方法というのはいくつかありますが、今回は『有酸素持久力』に焦点を当てて回復力との関係性について考えていきます。

有酸素持久力

有酸素持久力を表す代表的な数値として『VO2max』が挙げられます。

これは1分間でエネルギーを産み出すために身体が酸素をどれくらい摂取出来たかを表す指標なのですが、呼気ガスの測定などが必要になってくるので、実際に測定したことがある人は少ないのではないでしょうか。

他の実用的な測定としては『クーパー走(12分間走)』『20mシャトルラン』などが挙げられます。

これらのテストではMAS:Maximal Aerobic Speed(最大有酸素性速度)が算出でき、その数値をトレーニングにも活かすことが出来ます。

直接的に酸素摂取量を測定はしないテストですが、算出されたMASや距離、回数などからVO2maxを推定することが可能です。

一方でこれらのテストもマラソンのようにレストを挟まずに走り続けます。

そうやって測定した有酸素性持久力の能力が、バスケットボールやサッカーのような間欠的な運動のパフォーマンスに影響するのでしょうか?

有酸素性持久力が間欠的運動に与える影響

間欠的な運動といってもその強度や秒数には幅があります。

例えば5秒ダッシュ⇔30秒休むを繰り返すような運動と、2分ラン⇔1分レストを繰り返すような運動では、求められる能力は少し違ってくるでしょう。

Spencerら(2005)はその中でもRepeated Sprint Ability:RSA(反復性スプリント能力)というものについてレビューしており、その定義としては

✓3回以上繰り替えされるスプリント

✓21秒以下のリカバリーで次のスプリントを開始する

に当てはまるものだとしています。

そのような形に該当する測定の研究についていくつかレビュー内でも紹介されているのですが、多くの研究で

▼2本目以降のスプリントのパフォーマンスは低下

▼2本目以降のエネルギー生産はより有酸素的代謝への依存度が大きくなっていく

といったことが報告されています。

またBishop&Spencer(2004)は、6秒全力運動⇔24秒レストを5本実施した場合、球技系アスリートは持久系アスリートに比べて

▼1本目のパワーは大きい

▼5本目にかけてのパワー低下率が大きい

▼5本終了後の血中乳酸濃度が高く、pHが低い(より筋が酸性に傾いている)

ことを報告しています。

運動後の血中乳酸濃度は
持久系アスリート:9.9 ± 2.1mmol/L
球技系アスリート:11.4 ± 0.8mmol/L

となっていましたが、これは有酸素能力に優れる持久系アスリートが有酸素的代謝の大きさで解糖系に頼る割合が小さく済んだからだと考えられますが、逆に球技系アスリートは解糖系代謝をしっかりと使うことで1本目から高いパワーを出すことが出来たとも捉えられますね。

ただ、やはり試合後半にかけてグリコーゲンはなるべく残しておきたいので、有酸素的代謝が優位ということは後半のパフォーマンスの維持にはポジティブに働くでしょう。

また、Tomlin&Wenger(2001)のレビューでも有酸素能力の高さ(VO2max)は間欠的運動時の解糖系エネルギーの節約だけでなく、PCr(クレアチンリン酸系)のエネルギーの再合成に関わることも示されています。

やはり間欠的運動中の回復には有酸素能力が関わるということは間違いなさそうです。

有酸素能力が試合間のリカバリーに与える影響

今まで示したのは間欠的運動におけるパフォーマンスの維持、球技スポーツでいうとプレーとプレーの間の短い休息における回復能力についてでした。

球技系のアスリートの場合、試合方式によっては中1日や翌日での試合があるというのも珍しくありません。ではそのような『試合間のリカバリー』にも有酸素能力は影響を与えるのでしょうか?

Johnstonら(2015)はラグビー選手にYo-yoテスト(間欠的持久力のテスト)やスクワットの測定を実施し、それぞれのテストで高い数値を示した群と低い数値を示した群で、試合後の疲労・ダメージにどのような違いがあったのかを調べました。

その結果、高い間欠的持久力を示した選手ほど試合中の高速域のランニングの距離が長かったにも関わらず、試合後の筋ダメージ(血中CK)やジャンプ力の低下からの回復が早かったことが示されました。

これは持久力の高い選手ほど酸素供給能力が高く、グリコーゲンを節約出来たりCPrの再合成が早かったりしたという『プレー間のリカバリー』のメカニズムと少し異なり、筋タイプの影響が大きいのではと考えています。

実際、Bellingerら(2020)は持久的なトレーニングを7週間介入し疲労耐性があった選手(疲労の蓄積によるパフォーマンスの低下がなかった選手)ほどTypeⅠ(遅筋線維)が多かったことが報告されています。

一方で、上記のスライドの研究では有意差は無かったもののスクワットの挙上重量が大きい選手のほうが筋ダメージが少なかった (ES=0.25-0.39)ことも報告されています。

これは同じようなプレーをしていても出力する相対強度が低く済んだからかな。。?と個人的には考察しています。

まとめ

✓試合内のプレー間の回復(もしくはエネルギーの節約)に有酸素的持久力は貢献する

✓有酸素的体力が高いほうが試合後(24-48時間)のリカバリーは早い

といったことが研究からも分かりました。

ただ時間や労力といったものも有限なので、とりあえずいっぱい走れば良いんだ!となって持久系のトレーニングでへろへろになって競技練習やウエイトトレーニングに割く体力がばくなってしまっては本末転倒です。

必要な要素について整理しながら計画的に実施していきましょう!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


最近は博士課程の研究も一瞬落ち着いたので、ちょこちょこブログやSNSの更新をさせてもらってます。(またすぐ忙しくなりますが。。笑)

12月には『トレーニング指導におけるマネジメント及び測定のフィードバック法』のオンラインセミナーを実施させてもらおうかと思っています。

今のところ12月8日(日)の19:00〜21:00が第一候補なので、是非予定を空けておいてください!


参考文献

Bellinger, P., Desbrow, B., Derave, W., Lievens, E., Irwin, C., Sabapathy, S., … Minahan, C. (2020). Muscle fiber typology is associated with the incidence of overreaching in response to overload training. Journal of Applied Physiology, 129(4), 823–836. https://doi.org/10.1152/japplphysiol.00314.2020

Bishop, D., & Spencer, M. (2004). Determinants of repeated-sprint ability in well-trained team-sport athletes and endurance-trained athletes. Journal of Sports Medicine and Physical Fitness, 44(1), 1–7.

Johnston, R. D., Gabbett, T. J., Jenkins, D. G., & Hulin, B. T. (2015). Influence of physical qualities on post-match fatigue in rugby league players. Journal of Science and Medicine in Sport, 18(2), 209–213. https://doi.org/10.1016/j.jsams.2014.01.009

Spencer, M., Bishop, D., Dawson, B., & Goodman, C. (2005). Physiological and metabolic responses of repeated-sprint activities: Specific to field-based team sports. Sports Medicine, 35(12), 1025–1044. https://doi.org/10.2165/00007256-200535120-00003

Tomlin, D. L., & Wenger, H. A. (2001). The relationship between aerobic fitness and recovery from high intensity intermittent exercise. Sports Medicine, 31(1), 1–11. https://doi.org/10.2165/00007256-200131010-00001.

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です