【第168回】足首は硬いほうが良いってホント?ケースバイケースです!⇐めっちゃ解説します
「足首って硬いほうが良いんですか?」
という問いに対して、僕はプロとしてこう答えます。
「知らんがな」
まじで考えること多いんですよね。。。
本日は足首の硬さとパフォーマンスの関係についてのウソホントについて掘り下げていきます。
そもそも足首が硬いとは?
そもそも足関節の硬さというのも複数の要因に影響を受けます。
関節の可動性というのは多くの場合ROMテストで評価をされますが、研究においては最終域を被測定者の痛みや不快感を基準に測定しているケースがほとんどです。
そのため
✓ストレッチトレランス(ストレッチ痛に対する耐性)
✓筋腱のスティフネス
によって関節の可動性は決まってきます(Freitas et al., 2018)。
スティフネスというのは伸びづらさを示す変数で、スティフネスが大きい=伸びづらい=硬いということになります。
足関節の背屈可動域の場合、主に腓腹筋&ヒラメ筋からアキレス腱の硬さによって足関節のスティフネスが決まってくるということになりますね。
つまり一口に足首のか硬さといっても
①足関節のROM
②下腿の筋and/orアキレス腱のスティフネス
というものが存在し、
①は痛みの耐性という感覚的な要因と下腿の筋腱の硬さという物理的なものを含む総合的な可動域
②は下腿の筋and/orアキレス腱の物理的な硬さ
を示すということになります。
※このへんの詳しい定義は、昨年一新された日本スポーツ協会ATのテキストのストレッチングの項目で佐々部が解説しているので、手元にある人は是非確認してみてください!
足首の硬さとパフォーマンスの関係
足関節の硬さとパフォーマンスの関連について、硬いことのメリットを先に挙げると
(1)アキレス腱が硬いことによるRFD(瞬時に力を伝える能力)やRSI(バネのように跳ねる能力)の増加
(2)(1)を通したランニングエコノミーの向上
があります。
ランニングエコノミーとは、主に長距離などのランニングで余分な酸素を消費せずに走れる能力、同じ酸素消費量でも速く走れる能力を指します。
Konradら(2023)は
✓下腿の筋
✓アキレス腱
✓四頭筋
✓膝蓋腱
のスティフネスとランニングエコノミーの関係性について調べたところ、アキレス腱のスティフネスのみランニングエコノミーと相関を示したことを報告しています。
つまり、足首が硬いと言っても下腿三頭筋が硬さではなくアキレス腱の硬さが必要ということですね。
次は下腿の筋and/or腱のスティフネスではなく、ROMを測定し、ジャンプパフォーマンスとの関係性を評価した研究を2つ紹介します。
どちらの研究においても、CMJのような遅いSSCのパフォーマンスについては足関節の背屈ROMが大きいほうが有利だといえそうです。
一方で、ドロップジャンプのような速いSSC課題だと、背屈ROMが小さいほうがジャンプ時のRFD(力の立ち上がり率)が大きいことも報告されています。
この研究ではRSIは報告されていませんが、ジャンプ高と動作時間を見た感じだとRSIも足首が硬い選手のほうが大きそうですね。実際、アキレス腱のスティフネスが高いほどドロップジャンプの接地時間が短かったほとも報告されていますし(Abdelsattar et al., 2018)。
速いSSC、遅いSSCってなんやねんという方のために、動画でのイメージです↓
RSIというのは、速いSSC課題においていかに短い接地時間で高く跳ぶかという変数です。
https://twitter.com/tyr7bbb/status/1556597184061026305?s=20
ここまでのまとめ
✓足関節背屈ROMは大きいほどCMJのような遅いSSCのパフォーマンスは高い?
✓足関節背屈ROMが狭いほうがドロップジャンプのような速いSSCのパフォーマンスが大きい?
✓ランニングエコノミーやRSIの高さと関連があるのは下腿の筋ではなく腱の硬さ?
腱のスティフネスって変えられるの?
上記の観察研究の上方だけでは『足首の硬さがあったほうが良い!』『柔らかいほうが良い!』とは一概に言えなそうですね。
それにアキレス腱が硬いほうが良いとかいうけど、アキレス腱って固く出来るの?という疑問も浮かびます。
Burgessら(2007)はプライオメトリクスとアイソメトリックトレーニングの介入によって、どちらの群でも腱のスティフネスが向上したことを報告しています。
また、Albracht & Arampatzis (2013)の研究においても、足関節底屈のアイソメトリックトレーニング(足首を固定した状態でつま先を倒すような力を出すトレーニング)でアキレス腱のスティフネスが増加し、ランニングエコノミーが向上したことが報告されており、腱もトレーニングの介入で変化するということは間違いなさそうです。
また面白いことに、下腿を含む下肢の筋群へのストレッチの介入ではランニングエコノミーは低下しなかったことが報告されています(Nelson et al., 2001)。
しかしながらCooperら(2021)の研究においては筋束長が長いほどランニングエコノミーは低くなることも報告されているので、筋束長の適応を起こすほどの強度・期間でのストレッチは腱のたわみに影響を与え、ネガティブな効果を引き起こすかもしれません。
しかし同研究内で筋束長が長いほどパワー発揮能力が大きいことも報告されており、筋束長を大きくしたほうが良いのかはケースバイケースになりそうです。
まとめ
足首の硬さとパフォーマンスについて詳しく解説してきました。
またパフォーマンスとは異なる観点ですが、足関節背屈可動域が小さいほど膝蓋腱炎の発症率が高かったことが報告されています(Backman et al., 2011)。
考えること多すぎですね。笑
まとめ↓
✓足関節背屈ROMは大きいほどCMJのような遅いSSCのパフォーマンスは高い
✓足関節背屈ROMが狭いほうがドロップジャンプのような速いSSCのパフォーマンスが大きい
✓ランニングエコノミーやRSIの高さと関連があるのは下腿の筋ではなく腱の硬さ
✓速いSSCの能力(RSI)やランニングエコノミーを高めようと思ったら下腿三頭筋ではなくアキレス腱を硬くすべき?
✓腱のスティフネスはアイソメトリックトレーニングやプライオメトリクスで向上する
✓数週間のストレッチであればパフォーマンスの低下に影響を与えないが、やりすぎると特定のパフォーマンスに負の影響がある?
✓足関節背屈ROMが小さいと膝蓋腱炎のリスクがある
ここまで読んでもらえば分かるかと思いますが、本当に考えることはいっぱいです。
1つの研究で結論は出せませんし、そこにいる選手のニーズによっても適切なアプローチは変わっていきます。
EBPの重要性を示す分かりやすい例ですよね。
1人1人のニーズに対して細かく評価をするのが理想ですが、僕も大人数に指導することは多いので、チームで指導するときは
●競技・トレーニングするうえで困らない程度の最低限の背屈可動域を獲得させる
●アキレス腱のスティフネスを高めるために短いSSCを含むプライオのトレーニングを入れる
あたりに僕は落ち着いてます。
最低限の背屈可動域というのは競技によって少しずつ変わると思いますが。
みなさんの思考の整理に今回の記事が役立てばうれしいです!
執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)
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参考文献
- Abdelsattar, M, Konrad, A, and Tilp, M. between Achilles Tendon Stiffness and Ground Contact Time during Drop Jumps. ©Journal Sport Sci Med 17: 223–228, 2018.Available from: http://www.jssm.org
- Albracht, K and Arampatzis, A. Exercise-induced changes in triceps surae tendon stiffness and muscle strength affect running economy in humans. Eur J Appl Physiol 113: 1605–1615, 2013.
- Backman, LJ and Danielson, P. Low range of ankle dorsiflexion predisposes for patellar tendinopathy in junior elite basketball players: A 1-year prospective study. Am J Sports Med 39: 2626–2633, 2011.
- Burgess, KE, Connick, MJ, Graham-Smith, P, and Pearson, SJ. Plyometric vs. isometric training influences on tendon properties and muscle output. J Strength Cond Res 21: 986–989, 2007.
- Cooper, AN, Mcdermott, WJ, Martin, JC, Dulaney, SO, and Carrier, DR. Great power comes at a high ( locomotor ) cost : the role of muscle fascicle length in the power versus economy performance trade-off. J Exp Biol , 2021.
- Freitas, SR, Mendes, B, Le Sant, G, Andrade, RJ, Nordez, A, and Milanovic, Z. Can chronic stretching change the muscle-tendon mechanical properties? A review. Scand J Med Sci Sport 28: 794–806, 2018.
- Konrad, A, Tilp, M, Mehmeti, L, Mahnič, N, Seiberl, W, and Paternoster, FK. The Relationship Between Lower Limb Passive Muscle and Tendon Compression Stiffness and Oxygen Cost During Running. J Sports Sci Med 22: 28–35, 2023.
- Nelson, AG, Kokkonen, J, Eldredge, C, Cornwell, A, and Glickman-Weiss, E. Chronic stretching and running economy. Scand J Med Sci Sport 11: 260–265, 2001.
- Panoutsakopoulos, V and Bassa, E. Countermovement Jump Performance Is Related to Ankle Flexibility and Knee Extensors Torque in Female Adolescent Volleyball Athletes. J Funct Morphol Kinesiol 8, 2023.
- Papaiakovou, G. Kinematic and kinetic differences in the execution of vertical jumps between people with good and poor ankle joint dorsiflexion. J Sports Sci 31: 1789–1796, 2013.Available from: http://dx.doi.org/10.1080/02640414.2013.803587