【第20回】イチロー選手のインタビューについてもうちょっとだけ深く考えてみる
専門性【☆★★】
前回(ウエイトトレーニングの良い面、悪い面)、イチロー選手のインタビューでの一言を抜粋して記事を書かせていただきました。
他にもインタビューの中でいろいろ考えさせられる発言も多かったので、せっかくなのでもうちょっと考えを書いていこうと思います~
(動画はこちら)
まずは前回の記事のまとめ
何かを導入するとき(スポーツに限らず)は、それを行うことのメリットとデメリット、もしくはコストとリターンを考える必要がありますよね。
ウエイトトレーニングというのは上記のように、正しく行えばだいたいの場合メリットがデメリットを上回ります。
これをふまえたうえでイチロー選手の発言について考えていきましょう。
発現①
稲葉「トレーニングで身体を大きくするのが流行っているけど」
イチロー「全然ダメ」
まず前回にも述べた通り、イチロー選手は筋肥大等を目的としたウエイトトレーニングには否定的なようです。
しかしながらウエイトトレーニングをやったことがなく、ただイメージのみで否定しているのではなく(世の中にはそのような人が多いですが…)、自分自身でウエイトを行った結果、今の考えに至ったようです。
その理由として、以下のように述べています。
発言②
春先動けない→シーズン中トレーニングできなくて痩せる→スイングスピードが上がる
春先動けなくなった(スイングスピードが落ちた)原因として、
「このへんが回らなくなって」(胸あたりを指して)
と述べています。
おそらく、胸椎の回旋の可動域が低下したのでしょう。
このことから、最初の図のデメリット
可動域の低下
が起きていたことが推察されます。
もしくは
感覚の変化による技術の低下
も起きていたかもしれません。
もしも可動域の低下が原因ならば、おそらくトレーニングの行い方があまりよろしくなかったのではないかと考えられます。
発言③
筋肉が大きくなっても支えている関節とか腱は鍛えられない
この発言はウエイトを否定する方々の合言葉のように用いられていますが、関節も腱も、逆に適切なウエイトトレーニングできちんと鍛えられるということはデータでも示されています(H.Hartman et al, 2013)。
発言④
生まれ持ったバランスを崩してはダメ
この発言には半分賛成です。
しかしながら、「だからトレーニングをしない。」というのは逆じゃないかなーと思います。
確かに、胸ばかり、腹筋ばかりを鍛えたら筋のバランスはくずれて姿勢は悪くなる可能性があります。
しかしながら全身バランスよく鍛えればそのようなことは起きません。
というかむしろ、特定のスポーツを行っていることで身体のバランスが崩れることが多々起きます。
具体的には、野球やラケットスポーツなどでは利き腕側の筋が発達することが多いですし(たしか、僕の友達のラケットスポーツ選手も握力が左右で20近く違うとか)、自転車選手やアルペンスキーヤーのように、前かがみの姿勢を多くとるスポーツでは猫背になる可能性も高いと考えられます。
そのような選手には、逆に適切なトレーニングを行うことによって、イチロー選手のいう「持って生まれたバランス」を取り戻すことができると考えられます。
なので、この発言には半分賛成。
だからウエイトをしないっていうのは反対です。
発言⑤
合理的な考えってすごく嫌い
まったくミスなしでそこにたどり着いたとしても
深みはでない
この発言については何とも言えないです…
一連のウエイト否定発言は、動画のタイトルにもある通り、(おそらく)大谷投手やダルビッシュ投手のウエイトトレーニングによる肉体改造に向けられたものだと考えられます。
しかしダルビッシュ投手や大谷選手はウエイトトレーニングで一定の成果をおさめていますよね?
発言①について述べた通り、おそらくイチロー選手は、間違ったウエイトトレーニングを行ったためパフォーマンスが低下したものだと推察されます。
しかしながら
イチロー選手⇒1992年 オリックス入団
ダルビッシュ選手⇒2005年 日本ハム入団
大谷選手⇒2013年 日本ハム入団
この時代の流れ、そこに伴うトレーニングの知識の普及から
イチロー選手は(おそらく)正しいトレーニングに出会えず、自分自身で様々な工夫をしながら(発言の通り、いろんなミスをしながら)現在のスタイル、考えに至った。
ダルビッシュ投手、大谷選手は広まった知識や、指導者のもと、ウエイトトレーニングを行って成果を出した。(イチロー選手の嫌う、合理的な方法?)
ということなんじゃないかと思います。
今の時代、アスリートもきちんと勉強すれば必ず正しい知識にたどり着けますからね。
イチロー選手のウエイト否定発言を耳にして、「間違った知識を広めないでくれよ!」と思っているトレーニング指導者の方も多くいると思います。
僕自身、そのような気持ちもありますが、彼が歩んできた道や背景を考えると、様々な工夫を凝らし、今現在でも現役(42歳)でプレーをしているということに素直に感服しています。
ただ、当時正しい知識が転がっていなかった。それだけのことだと思います。
まとめ
僕たちトレーニング指導者は、それこそイチロー選手の嫌う【合理的な方法】でアスリートが成果を出せるよう、サポートする職業です。
しかしながら人生においては、いろいろな失敗を重ねることでわかってくることもあります。
なので教師という立場で生徒に指導するときは(時にはコーチがアスリートを指導するときも?)、必ずしも合理的な方法を示すだけではいけないのかもしれませんね。
無駄なことって結局、無駄じゃない
イチロー選手の発言を否定するような記事になってしまいましたが、僕が彼のファンなのは変わりありません。
僕も元野球少年ですし、そういえばイチローに憧れて振り子打法のモノマネなんてのもしてましたしね。笑
参考資料
H.Hartman et al, 2013
Analysis of the Load on the Knee Joint and Vertebral Column with Changes in Squatting Depth and Weight Load
Sports Med 43:993
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