【第164回】ラダーがアジリティ向上に有効でない理由

先日このような研究をシェアしたところ、様々な反響をいただきました。

#91 Padrón-Cabo et al., 2020

「え!ラダーってアジリティ向上に有効じゃないの。。」といった驚きの意見から

「そりゃアジリティを高めるためのものではないし」といった意見まで。

しかし日本においてはラダーはアジリティ向上のための器具という認識を持たれているケースは多いです。

僕自身、大学院の修士課程のときの研究テーマは『アジリティ』であったのですが、このラダーの研究に関しては、『まあ、そりゃそうやろうな』といった感想でした。

ではなぜ『ラダーをおこなってもアジリティが向上しなかったか』について解説していきます。

そもそもアジリティとは?

そもそもの話になるのですが、アジリティとはどのような能力でしょうか。

実はアジリティというのは科学の世界では

アジリティ=身体的な方向転換の速度+認知・判断能力

だと考えられており、アジリティを測るとされるテストの多くは認知・判断を伴わず、厳密にはアジリティではなく『方向転換スピード』に分類されます。

なのでここからは方向転換スピードと言い換えて話を進めていきますね。

方向転換スピードを測るテストというのは数えられないほど様々なものがあります。

ここに挙げたものはいくつもあるテストの一例ですが、あるテストのスピードが速かったとしても、他のテストのスピードも速いとは限りません

例えばプロアジリティではスプリントが移動手段ですが、Tテストの移動手段はサイドステップとバック走も含まれます。

またスプリントを用いた方向転換のテストであってもプロアジリティとジグザグ走では方向転換の角度が180度と90度というように大きく異なります。

このように
✓移動方法
✓方向転換の角度
がテスト毎で異なるのが、テスト同士の関連を弱めている原因です。

しかしどのテストにおいても

●加速した自分の身体にブレーキをかけてしっかり止める

●止まった後に地面を押して再加速する

といったことが必要になります。

ここに『ラダーではアジリティが向上しなかった』原因があります。

ラダーは地面を強く押さない

方向転換スピードを高めるためには自分の身体にブレーキをかけて止まる&再加速をするために、水平方向に身体を動かす(止める)力を加える必要があります。

そのためには地面反力を
・大きくする
・より傾ける
といった戦略が必要になります。

一方でラダーは足を素早く動かすものの、大きな地面反力は得られませんよね。

また、特に角度の大きなターン動作では重心の低さと方向転換の速さに関係があるとされていますが(Sasabe et al., 2022)、ラダーでは基本的に重心の上下はなく、常に高い重心でおこなう種目が多いです。

それらが『ラダーではアジリティが向上しなかった』理由だと考えられます。

しかもPadrón-Caboら(2020)で用いられたアジリティのテストはスラローム走と、アジリティのテストの中でも大きなブレーキよりも細かい足さばきが求められるテストであり、これがラダーで向上しなかったということは180度ターンなどが用いられるアジリティのテストだとより一層効果は薄そうですよね。

「もちろん地面反力を傾けるための足さばきを覚える」という間接的な効果はあるかもしれませんし、大きな地面反力を活用するようなラダーのトレーニングも考えられるかもしれませんが、「ラダーをどうしても活用したいんだ!」とか「ラダーを世の中に普及したいんだ!」といった熱意がある場合は別として、他の方法を組み合わせることも考慮したほうが良いでしょう。

実際、レジスタンストレーニングの介入(Keiner et al., 2014)や実際のターン動作の修正トレーニング(Dos’Santos et al., 2022)によって方向転換スピードが向上したことが報告されていますし、ラダーの優先順位は低いでしょう。

まとめ

✓ラダーのアジリティ向上効果は薄い

✓方向転換にはブレーキ・再加速のための大きな地面反力が必要だが、ラダーではそこを向上出来ないから?

✓方向転換スピードを高めるには下肢のトレーニングや実際の動作指導のほうが有効

なんだかラダーをけなす記事みたいな雰囲気ですが、僕が伝えたいのはラダー自体への否定ではなく『アジリティ向上のためにラダーをやるのってどうなん?』ということ。

『育成年代での多様な運動経験』の1つとしてならラダー1つで色んなバリエーションの運動が出来ますし、アジリティ向上という目的ではなく『細かい足さばきを覚えるため』といった目的であればラダーは有効かもしれません。

ただ僕自身は限られたトレーニングの時間で、その『細かい足さばきを覚える』ことがどうパフォーマンスに繋がるかは説明出来ないため、高校生以上の年代でラダーを使用することはあまりありません。

もちろん、スキルコーチがそのスポーツのスキルの習得の補助にラダーを使用するケースはあると思いますのでそれはOKかと思います!

以上、大学院でアジリティを研究してずっと思っていたことでした!

アジリティについてもっと知りたい人はこちらの記事で⇓

【第61回】アジリティの本質を理解する①段階的な習得

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


秋に大学院の博士課程に入学し、3か月が過ぎました。

先行研究調査、実験計画、機材の使用方法確認、、研究に関することの負荷が半端ないです(笑)

ただ、楽しい負荷ですし成長出来る環境なので頑張ります!

頑張ってブログの更新も(余裕があればセミナーの開催も)していこうと思うので応援よろしくお願いします!


 

1         Keiner M, Sander A, Wirth K, et al. Long-Term Strength Training Effects on Change-of-Direction Sprint Performance. J Strength Cond Res 2014;28:223–31. doi:10.1519/JSC.0b013e318295644b

2         Dos’Santos T, Thomas C, Comfort P, et al. Biomechanical Effects of a 6-Week Change of Direction Speed and Technique Modification Intervention. J Strength Cond Res 2022;36:2780–91. doi:10.1519/jsc.0000000000003950

3         Sasabe K, Sekine Y, Hirose N. The Relationship Between Motor Ability and Change-of-Direction Kinematics in Elite College Basketball Players. Int J Sport Heal Sci 2022;20:175–80. doi:10.5432/ijshs.202205

4         Padrón-Cabo A, Rey E, Kalén A, et al. Effects of Training with an Agility Ladder on Sprint, Agility, and Dribbling Performance in Youth Soccer Players. J Hum Kinet 2020;73:219–28. doi:10.2478/hukin-2019-0146

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