【第162回】速いSSCと遅いSSCは別物?それぞれの特性について整理する

前回の記事では【第161回】プライオメトリクスの基本ーSSCとは?ピュアコンセントリックとは?というタイトルで、SSCについて解説しました。

ドロップジャンプのような速いSSCと、カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)のような遅いSSCでは動作自体が異なるということに触れました。

今回は「じゃあ一体どんな感じで違うんだい」ということを少し掘り下げてみようと思います。

(速いSSCと遅いSSCのイメージ⇓)

https://twitter.com/tyr7bbb/status/1556597184061026305?s=20&t=BFg0_Y8-yXA9cOVdCkywNQ

 

重心高、関節角度の観点から

遅いSSCの代表的な動作であるCMJ、速いSSCの代表的な動作であるDrop Jump(Bounce)について比較してみましょう。

CMJでの沈み込み幅は33.0±4.1㎝

Drop  Jumpでの沈み込み幅は15.5±4.3㎝

であったことがMarshall & Moran(2013)の研究で報告されています。

また同じ研究で、沈み込んだ時の各関節の角度は

CMJ
股関節:59.5±16.5°
膝関節:83.6±11.4°
足関節:57.1±6.1°

Drop Jump(Bounce)
股関節:119.1±13.4°
膝関節:100.9±7.5°
足関節:57.7±5.1°

※数字が小さいほどより屈曲している

といった数値が報告されています。

接地時間、動作時間の観点から

関節角度や沈み込み幅が違うということは、接地時間、動作時間も違うと考えられます。

ドロップジャンプの接地時間は0.2-0.3秒程度であることが報告されており(Hunter & Marshall, 2002;Abdelsattar et al., 2018)、CMJの動作時間は0.4-0.8秒程であることが報告されています(Marshall & Moran, 2013)。

ちなみにスプリントや陸上の跳躍動作(走り幅跳びや走り高跳び)の接地時間は0.1-0.2秒程度なので速いSSC(Taber et al., 2016)、バレーボールのスパイク時のジャンプのような深い沈み込みをするジャンプの動作時間は0.3-0.4秒ほどなので遅いSSCに分類されると考えられます(Wagner et al., 2009)。

関節で発揮する力の観点

このように動作が異なるということは、発揮している力(関節トルク・パワー)にも違いがありそうですよね。

下のスライドの棒グラフの赤い部分が股関節オレンジの部分が膝関節灰色の部分が足関節で発揮したパワーになります。

CMJや、CMJのように行うDrop Jumpでは股関節でのパワー発揮が大きくなっていますが、Bounce Drop Jumpではそれらのジャンプよりも膝関節の発揮パワーが大きくなっており、足関節の発揮パワーも大きいようです。

以上の点をまとめると、Slow SSCの代表的動作であるCMJとFast SSCの代表的動作であるDrop Jumpの特性は以下のようなものになります。

各動作のパフォーマンスを高めるには?

各関節パワーから考えると、CMJのパフォーマンスを高めるためには股関節での大きなレンジでの力発揮やパワー発揮が重要になると考えられます。

RDLのようなヒップヒンジを大きく使う種目を実施したり、ハングクリーンのように股関節で大きなパワー発揮をする種目の実施に加え、CMJ自体をトレーニングとして実施することが効果的かと考えられます。

一方でDrop JumpのようなFast SSCの種目では膝関節や足関節でのパワー発揮が重要になります。

ウエイトトレーニングに関してはプッシュプレスやジャークといった股関節の大きなヒンジを使わずに一瞬でパワーを発揮する種目を実施するのが良いのではないでしょうか。

また、アキレス腱スティフネス高いほどDrop Jumpの接地時間短い(Abdelsattar et al., 2018)ことが報告されています。

ポゴジャンプやDrop Jumpといったプライオメトリクスによってアキレス腱のスティフネスは向上することも報告されていますが、同様に足関節のアイソメトリックなトレーニングでも腱スティフネスの向上は報告されています(Burgess et al., 2007)。

アキレス腱炎を患っている選手であったり、発症リスクの高い競技の場合はアイソメトリックトレーニングを活用するのもありかもしれませんね。

まとめ

CMJのような遅いSSCと、Drop Jumpのような速いSSCでは動作の特性が大きくことなるという内容でした。

多くのスポーツにおいてこれらの能力は両方とも大事になってくるので、どちらか一方には隔たらないようにバランス良く向上させていきましょう!

※そもそもの基礎筋力があるのが大前提なので、まずは男性は体重の1.5倍、女性は体重の1.2倍程度のスクワットをパラレル以下で上げられるように頑張りましょう!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


パエリアってお店で食べるやつより自炊で2000円くらい課金して作った具沢山のやつのほうが豪華で美味しかったりしますよね。


参考文献

  1. Marshall, B. M. & Moran, K. A. Which drop jump technique is most effective at enhancing countermovement jump ability, ‘countermovement’ drop jump or ‘bounce’ drop jump? J. Sports Sci. 31, 1368–1374 (2013).
  2. Hunter, J. P. & Marshall, R. N. Effects of power and flexibility training on vertical jump technique. Med. Sci. Sports Exerc. 34, 478–486 (2002).
  3. Taber, C., Bellon, C., Abbott, H. & Bingham, G. E. Roles of maximal strength and rate of force development in maximizing muscular power. Strength Cond. J. 38, 71–78 (2016).
  4. Wagner, H., Tilp, M., Von Duvillard, S. P. V & Mueller, E. Kinematic analysis of volleyball spike jump. Int. J. Sports Med. 30, 760–765 (2009).
  5. Abdelsattar, M., Konrad, A. & Tilp, M. between Achilles Tendon Stiffness and Ground Contact Time during Drop Jumps. ©Journal Sport. Sci. Med. 17, 223–228 (2018).
  6. Burgess, K. E., Connick, M. J., Graham-Smith, P. & Pearson, S. J. Plyometric vs. isometric training influences on tendon properties and muscle output. J. Strength Cond. Res. 21, 986–989 (2007).

 

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