【第159回】スポーツドリンクは薄める?そのまま飲む?そこにきちんと理由はありますか?
夏場のスポーツ活動中の飲み物、何を飲みますか?
水?麦茶?スポーツドリンク?緑茶?
もしあなたがイギリスのクリケット選手であれば休憩中に紅茶を飲むかもしれませんね(ガチ)。
試合中に、一定のオーバーが経過した場合、または時間が経った場合にはドリンクタイム、ティータイム、ランチタイムなどが入り試合を休憩する。(Wikipedia『クリケット』より)
というのはさておき、これから気温も上がってくるので熱中症予防のためにも、パフォーマンスを落とさないためにも水分補給は大事ですよね。
運動中の水分摂取は真水よりもナトリウムなどの電解質が含まれているほうが良いとされています。
なぜなら汗にはナトリウム等も含まれており、真水の摂取だとそれがどんどん薄まっていってしまうからです。
体内の電解質の濃度が薄まると低ナトリウム血症という症状を引き起こすことがありますが、軽度のものでもスポーツ活動には大きなデメリットがあります。
そのため運動中の水分補給にはスポーツドリンクなどがおすすめなのですが、本日の話題は『スポーツドリンクを薄めるか?』という点です。
スポーツドリンクは薄めたほうが良い?
巷では『スポーツドリンクは薄めたほうが良い!』という意見を目にすることもあります。
ツイッターでもアンケートをとってみたところ、皆さんこのように答えてくれています。
夏場の運動、コスパを考えてポカリ(アクエリ)を粉で買いました。
あなたは運動中に飲むならどんな濃さにする?
— 佐々部孝紀(Koki Sasabe) (@tyr7bbb) June 22, 2022
全体の3分の1以上の人が薄めて飲むとのこと。
その理由としては
✓そのままの濃度では浸透圧が高く吸収が遅くなる
✓糖分過多だから
といった形で、ナトリウムなどの電解質や糖質の濃さに言及されていることが多いです。
ではスポーツドリンクの濃さはどのくらいなのでしょう?
そもそも人体のナトリウム濃度は140mmol/L程度であり、運動選手の汗に含まれるナトリウムの濃度は40mmol/L程だと報告されています(1)。
そしてスポーツドリンクやOS-1といった飲料のナトリウム濃度は下記の図のようになります。
スポーツドリンクは汗よりも少し薄い濃度になっており、身体のナトリウム濃度よりは全然薄いことが分かりますよね。
そのため、『ナトリウム濃度が身体に対して濃すぎる』という意見には疑問が残ります。
脚のつりやすさ
次に、『脚のつりやすさ』という点に目を向けて、飲むものを考えていきましょう。
Lauら(2019)は被験者を暑熱環境で運動させ、体重の2%ほどを汗をかいた状態で筋肉のつりやすさを測定しました(3)。
その結果、ただの脱水状態では筋肉のつりやすさに変化はなかった一方で、真水を摂取した後は筋肉がつりやすくなり、OS-1を摂取した後では筋肉がつりづらくなったことが報告されています。
これはOS-1にはナトリウムなどの電解質が多く含まれており、真水の摂取では体内の電解質濃度が薄まってしまったためと考えられます。
OS-1自体は脱水時に補給するためのものであり、普段飲むためのものではありませんのでご注意を(公式HPにも記載はあります)。
一方でスポーツドリンクを薄めて飲むと、ナトリウムなどの電解質の濃度が薄くなり真水に近くなるので、もしかしたら筋肉がつりやすくなるかも?と考えられますよね。
吸収のされやすさ
さて、水分の吸収のされやすさについてはどうでしょうか。
大塚製薬さんは『ポカリスエットは薄めると吸収スピードは変わりますか?』という問いに対して以下のように回答しています。
ポカリスエットは、「水分とイオン(電解質)のスムーズな吸収」を探求し、現在の内容成分に決定しています。ポカリスエットが甘いのは、水分の吸収をより速くするのに適した糖分を、適切な濃度で配合しているからです。水で薄めてしまうと「水分とイオン(電解質)のスムーズな吸収」が損なわれてしまうのでおすすめしておりません。(ポカリスエット公式HP)
つまり、そのまま飲んでねってことですね。
またPochmullerら(2017)の研究(2)では長時間に及ぶ運動の場合、6~8%の糖質の濃度のドリンクの摂取が推奨されています。
そのため、吸収率の観点からもエネルギー補給の観点からも、スポーツドリンクは薄めずにそのままの摂取のほうがよさそうです。
まとめ
スポーツドリンクを薄めて飲んだほうが良いか?という問いに対しては
✓汗をかいた後にナトリウムなどの電解質の濃度が薄い飲み物を飲むと体液が薄まって筋肉をつりやすくなる
✓スポーツドリンクを薄めて飲むのは販売している企業も推奨していない(吸収効率の観点から)
✓エネルギー摂取の観点からも、そのままの濃度のほうが良さそう
といったことから、僕自身は今のところそのままの濃度で飲むように選手に指導しています。
もちろん、上記を理解したうえで他の意図(例えば、少し薄いほうが量を飲める気がするなど)があってあえて薄めているなら良いかと思いますし、あくまでも『スポーツ活動中』の話なので、日常の水分摂取の場合はまた変わってくるかと思います。
ただ昔からなんとなくそう言われてきたから薄めてるというかたは、熱中症予防の観点からも、パフォーマンス維持の観点からも一度見直してみるのも良いかもしれません!
執筆者:佐々部孝紀
めちゃくちゃ久しぶりの更新になりました。。
新年度で新しい仕事も頂きいろいろと忙しさMaxでしたが、落ち着いてきたのでまたぼちぼち更新していきます!
参考文献
- Lau, W. Y., Kato, H. & Nosaka, K. Water intake after dehydration makes muscles more susceptible to cramp but electrolytes reverse that effect. BMJ Open Sport Exerc. Med. 5, (2019).
- Pöchmüller, M., Schwingshackl, L., Colombani, P. C. & Hoffmann, G. A systematic review and meta-analysis of carbohydrate benefits associated with randomized controlled competition-based performance trials. J. Int. Soc. Sports Nutr. 14, 1–12 (2016).
- Baker, L. B., Barnes, K. A., Anderson, M. L., Passe, D. H. & Stofan, J. R. Normative data for regional sweat sodium concentration and whole-body sweating rate in athletes. J. Sports Sci. 34, 358–368 (2016).