【第154回】リフティング競技とストレングス&コンディショニングの違いを考える

スクワット、デッドリフト、スナッチ、クリーン、、

これらはパワーリフティングやウエイトリフティングで競技として用いられる種目ですが、他の競技のアスリートの競技力向上のためのトレーニング、『ストレングス&コンディショニング』のプログラム内でも良く用いられます。

リフティング種目の有効性

なぜこれらの種目が他の競技のアスリートのトレーニングにも用いられるかというと、筋力やパワーの向上をするうえで有用な種目だからです。

バーベルを用いたスクワットやデッドリフトは下肢~体幹部の多くの筋肉を動員して大きな力を出す種目ですし、クリーンやスナッチはスクワットやデッドリフトよりは軽い重量になるものの、それを素早く持ち上げる必要があるので、より大きなパワー発揮を必要とします。

パワー発揮という点では自体重でのプライオメトリクスも有用だと考えられますが、それはあくまでも高速域・低負荷のパワー発揮になるので、スクワットやクリーンとは異なります。

これら様々な速度域の負荷を適切にかけることが、アスリートの競技力向上のためのトレーニングには重要になってきます。

実際、スクワットの挙上重量の向上率とスプリントスピードの向上率に有意な相関が認められたことがメタアナリシスで報告されてますし(Seitz et al., 2014)、クリーンやスナッチなどのクイックリフトではプライオメトリクスと同等のジャンプ力向上の効果が報告されています(Hackett et al., 2016)。

プライオメトリクスもトレーニングとしては非常に有効なのですが、バスケットボールのようにジャンプを頻発する競技ではジャンパーズニーの発症率が非常に高いこと(Hutchison et al., 2019)も考慮すると、余計にジャンプでの負荷を与えるよりも初めはスクワットなどのベーシックな種目で筋力の土台をつくるほうが賢明でしょう。

リフティング種目をS&Cプログラムに組み込む際の注意点

スクワットやデッドリフトなどのパワーリフティングの種目、クリーンやスナッチなどのウエイトリフティングの種目を他の競技のアスリートのトレーニング(S&Cプログラム)に組み込む際には、その先にある『競技力向上』を考慮しなければなりません。

その時に重要になってくるのが、

①傷害のリスクをなるべく減らすこと

②重量を上げること自体を目的にしないこと(でも重量を上げることは大事)

の2つです。

ウエイトリフティング選手とパワーリフティング選手の傷害に関するレビューによれば、両競技とも傷害の発症リスクは他のノンコンタクトスポーツ(陸上やアルペンスキー)と同程度であることが推察されています(Aasa et al., 2017)。

特にウエイトリフターでは膝・腰の怪我が多いようで、パワーリフターでは肩・腰の怪我が多いことが報告されています(Raske &Rolf 2002)。

これはウエイトリフターとパワーリフターのスクワットのフォームの違い(ハイバーvsローバー)も関係があるかもしれませんが、個人的にはウエイトリフターに必要な『ローキャッチ』が膝の負担になってると考えています。

膝関節・大腿四頭筋に焦点を当て、速度をコントロールした高負荷のスクワットは、むしろ膝蓋腱炎のリハビリに有効であることが報告されており(Kongsgaard et al., 2009)、ハイバースクワットだから膝に悪いとは一概には言えません。

ローキャッチでは膝を大きく屈曲した状態で重量を受ける必要があり、足関節の背屈制限があると膝関節が関節運動面から逸脱した動きをする必要も出てきます。そして何よりスクワットと違ってコントロールされた速度ではないエキセントリックな力発揮にをする必要があります。

そう考えるとアスリートのトレーニング指導においては無理にローキャッチをせずにハイクリーン(パワークリーン)にしておくほうが、傷害のリスクも少なく、同じ重量でも発揮パワーが大きくなると考えられるのでベターかもしれません。

またデッドリフトと一言に言っても、スモウデッドリフトやコンベンショナルデッドリフトなど、様々なデッドリフトがあります。

バーベルを持ち上げることだけを考えるとスモウデッドリフトのほうがバーの移動距離が小さくでき、体幹を直立に近づけることで腰部のモーメントを減らすことができるので効率的です(Piper&Michael 2001)。

一方でその後にクイックリフトを導入したり、腰背部も強化するという目的ではコンベンショナルデッドリフトのほうがベターでしょう。

コンベンショナルデッドリフトでもパワーリフティングのフォームとウエイトリフティングのフォームで異なるようです。アスリートの競技力向上&余計な傷害リスクをかけないことを考えると、ウエイトリフティング式のフォームをベースに、腰部に過剰な負荷をかけないことを考えてフォーム・プログラムを組んでいくのがよいでしょう。(ここを掘り下げるとめちゃくちゃ長くなるのでこのへんで、、)

まとめ

壮大なテーマだったので、ほんの一例しか紹介できませんでしたが、パワーリフティング、ウエイトリフティング、アスリートのトレーニングとしてのリフティング種目にはどのような違いがあるのか?を考えるきっかけになればと思います。

異なる物だとはいえ、リフティング種目を競技として経験しているS&Cコーチの方はやっぱり強みではありますよね。(もちろん異なる物だと認識して使い分けをしている前提ですが)

何より強い人の言うことは聞くって選手も多いですしね。笑

今回はフォーム的な話になりましたが、『トレーニングのセッションとは別に競技練習がある』というのも考慮すべき大きなポイントでしょう。

是非今回の記事をヒントにトレーニングについて掘り下げて考えてみてください!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


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参考文献

  1. Hackett, D, Davies, T, Soomro, N, and Halaki, M. Olympic weightlifting training improves vertical jump height in sportspeople: A systematic review with meta-analysis. Br J Sports Med 50: 865–872, 2016.
  2. Hutchison, MK, Houck, J, Cuddeford, T, Dorociak, R, and Brumitt, J. Prevalence of Patellar Tendinopathy and Patellar Tendon Abnormality in Male Collegiate Basketball Players: A Cross-Sectional Study. J Athl Train 54: 953–958, 2019.
  3. Kongsgaard, M, Kovanen, V, Aagaard, P, Doessing, S, Hansen, P, Laursen, AH, et al. Corticosteroid injections , eccentric decline squat training and heavy slow resistance training in patellar tendinopathy. Scand J Med Sci Sport 19: 790–802, 2009.
  4. Piper, TJ and Waller, MA. Variations of the Deadlift. Strength Cond J 23: 66–73, 2001.
  5. Seitz, LB, Reyes, A, Tran, TT, de Villarreal, ES, and Haff, GG. Increases in Lower-Body Strength Transfer Positively to Sprint Performance: A Systematic Review with Meta-Analysis. Sport. Med. 44: 1693–1702, 2014.

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