【第120回】スタティックストレッチを運動前に実施すると出力を低下させるということは常識になりつつあるけれど、習慣的なストレッチの実施が筋出力に与える影響については?
家でできる運動というのは限られますよね。
・自体重トレーニング
・ストレッチ
・バンドを使ったトレーニング
あたりは大きなスペースもいらないので自宅での実施はしやすいです。
皆さんも今は自宅でストレッチに励んでいるという方も多いのではないでしょうか。
しかしながらアスリートの場合は、ストレッチの種類、そのメリットとデメリットをきちんと把握しておかないと、活動再開時のパフォーマンスに大きく影響してしまうかもしれません。
ストレッチの種類
ストレッチは
スタティックストレッチ(静的ストレッチ)と
ダイナミックストレッチ(動的ストレッチ)の
の2つに大別できます。
スタティックストレッチは可動域向上に向いている一方で(Bandy et al., 1998)、直後の力発揮能力を低下させてしまう(Simic et al., 2013)。
一方で、ダイナミックストレッチの場合は可動域向上への効果はスタティックストレッチよりも小さい一方で(Bandy et al., 1998)、直後のパフォーマンスは向上することが知られています(Fletcher et al., 2010)。
そのため、ウォーミングアップではダイナミックストレッチを中心に、柔軟性を向上させるエクササイズとしてはスタティックストレッチを、というのは段々と常識になりつつありますよね。
しかし意外と見落としがちなのが、『ストレッチを実施することで長期的な筋出力にはどのような影響を与えるのか?』ということ。
今回はこの疑問について検証した研究をご紹介します。
ストレッチの長期的な効果 スタティックvsダイナミック
Barbosaら(2019)は運動習慣のある18~28歳の被験者を
▼コントロール群(何もしない人たち)
▼スタティックストレッチ群
▼ダイナミックストレッチ群
に分け、3~4週間かけて10セッションの介入を実施しました。
その期間の前後で
・エキセントリックな筋力
・パワー発揮
の測定を行ったところ、
ダイナミックストレッチやコントロール群では有意な筋力の変化は起きなかった一方で、
スタティックストレッチを実施した群は、
コントロール群に比べて7.6%(±21.7%)
ダイナミックストレッチ群に比べて7.8%(±29.8%)
のエキセントリック筋力の低下を示しました。
また同様に、トリプルホップテストで測定したパワー発揮能力もスタティックストレッチ群は低下を示しました。
ちなみに、スタティックストレッチ群もダイナミックストレッチ群も、最後のセッションから48時間以上空けてからの測定を実施しているので、この変化にはストレッチの急性効果は含まれないと考えられます。
筆者も考察の中で述べていますが、筋力やパワー発揮低下のメカニズムとしては
・腱のスティッフネスの低下(腱がゆるくなった)
・中枢神経からのコマンドの低下
などが考えられます。
静的ストレッチはしないほうが良いのか?
この研究の結果から、短絡的に「静的ストレッチはアスリートはしないほうが良い!」とは言えません。
この研究では、介入期間中にその他の運動(筋トレなど)をしないようにコントロールをされているので、おそらく筋トレと併用したら筋力低下は抑えれるでしょう。
一方で、『筋トレ』vs『筋トレ+スタティックストレッチ』の効果がどちらのほうが高いかは、この研究からだと何とも言えませんし、状況によると考えられます。
例えばウエイトトレーニングを実施するときに動かしている範囲が大きいほど、
・筋線維長増加
・筋肥大の効果
が高いことが分かっています(McMahon et al., 2014)。
そのため
スタティックストレッチで大きな可動域を獲得
⇒その可動域をフルに使ってトレーニングを実施
とつなげることができれば、スタティックストレッチが間接的に筋肥大・筋力向上に貢献できる可能性もあります。
また、パフォーマンスを高めたい動作に関しての主働筋・拮抗筋を把握したうえで、拮抗筋にのみストレッチを実施すれば、スタティックストレッチで直接的にパフォーマンスを向上させることもできる可能性があります。(詳しくはこちら)
今回紹介した研究とは異なる結果を報告している研究もありますし(Shrier, 2004)、その機械的張力により筋肥大を促進するのでは?といった説も出ているので、静的ストレッチをしたほうが良いのかどうかという問いに対しての回答は、『場合によるし行い方による』と言えます。
まとめ
少し結論としてはもやっとした物言いになってしまいましたが、トレーニングやリカバリー手法については断言できることは少ないですし、それぞれの手法にメリットもあれば副作用もあります。
そう考えると我々指導者の役割は、メリットとデメリットをうまく組み合わせて、ポジティブな結果を最大化できるようにするトレーニングの薬剤師みたいなものなのかもしれませんね。
もちろん、トレーニングという薬を使うのは選手自身なので、自分がどういったものを使用しているかを把握していないと、被害を被るのは自分自身です。
効果的なトレーニングができるように、身体も頭も鍛えていきましょう!
執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)
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参考文献
- Bandy, WD, Irion, JM, and Briggler, M. The effect of static stretch and dynamic range of motion training on the flexibility of the hamstring muscles. J Orthop Sports Phys Ther 27: 295–300, 1998.
- BARBOSA, GM, TRAJANO, GS, DANTAS, GAF, SILVA, BR, and VIEIRA, WHB. Chronic effects of static and dynamic stretching on hamstrings eccentric strength and functional performance: a randomized controlled trial. J Strength Cond Res 00: 1–9, 2019.
- McMahon, GE, Morse, CI, Burden, A, Winwood, K, and Onambélé, GL. Impact of range of motion during ecologically valid resistance training protocols on muscle size, subcutaneous fat, and strength. J strength Cond Res 28: 245–55, 2014.Available from: http://journals.lww.com/nsca-jscr/Fulltext/2014/01000/Impact_of_Range_of_Motion_During_Ecologically.32.aspx%5Cnhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23629583
- Shrier, I. Does stretching improve performance? A systematic and critical review of the literature. Clin J Sport Med 14: 267–273, 2004.Available from: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15377965
- Simic, L, Sarabon, N, and Markovic, G. Does pre-exercise static stretching inhibit maximal muscular performance? A meta-analytical review. Scand J Med Sci Sport 23: 131–148, 2013.