【第98回】トレーニングにも副作用?~科学的根拠からの推測を活かす~
先日以下のような研究をツイッターでシェアしたら、様々なリアクションをいただきました。
不安定面(ディスクなど)を用いたトレーニングは、身体能力の向上を阻害するようです。
特にジャンプやスプリントなど、コンセントリックなパワー発揮の貢献が大きなものほど阻害効果が大きくなる様子。 pic.twitter.com/IWiX2XpC2T
— 佐々部孝紀(Koki Sasabe) (@tyr7bbb) April 6, 2019
「そうだったんだ!ディスクのトレーニングやめようかな。」
「私はディスクのトレーニングで効果を感じましたけどね。」
「捻挫のリハビリには使えるんじゃないの?」
などなど、様々な意見をいただきました。
一連のツイートで僕の考えもシェアさせていただきましたが、せっかくなので記事としてまとめます。
研究デザインについて
上記の研究について
「単純にディスクを用いることで挙上重量が下がっただけで、ディスクがトレーニング効果を阻害したわけではなく、重量不足によるトレーニング刺激不足なんじゃないの?」
といった意見をいただきました。
すごく真っ当な考察です。僕も最初この研究の要約を読んだときにはそう思いました。
しかし研究デザインは
不安定群も安定群も
メイン種目(スクワットやデッドリフト)は安定面(普通の床)で
補助種目(ランジ)の実施面を
・不安定群⇒ディスク
・安定群 ⇒床
という形になっています。
もちろんランジの重量は不安定群のほうが低くなりますが、そのランジの重量不足だけでこのトレーニング効果の差は考えづらいですよね?
となるとやはり重量不足だけではなく、何かしら他のメカニズムでトレーニング効果が阻害されていたと考えられるでしょう。
トレーニング効果阻害メカニズムの考察
ではなぜトレーニング効果が阻害されたのかを考えていくと、「力発揮の非効率性の獲得」が考えられます。
別の研究(Anderson and Behm, 2004)で、ベンチプレスについて安定面(ベンチ)と不安定面(バランスディスク)での筋出力、筋活動の比較を行われています。
結果を簡潔にまとめると、胸の筋活動(EMG)はどちらの群も同程度だったのにも関わらず、不安定群のほうが実際に発揮した力は低下していました。
同じくらい筋は活動しているのに出せる力が低下していた原因としては、拮抗筋の余計な活動を始め、バランスをとるという課題が追加されたことによって効率的な力発揮ができなかったためかと考えられます。
ざっくり言うと、バランスをとるのにいっぱいいっぱいで力を出すことに集中できなかったということですね。
最初に紹介したCresseyら(2007)の研究では、10週間そういったトレーニングを行うことで、その非効率な力発揮がクセづいてしまったためとも考えられます。
目的による!
当たり前のことですが、目的によってそのトレーニング(エクササイズ)がプラスになるのかマイナスになるのかは変わってきます。
上記で示したCresseyら(2007)の研究では、あくまでもジャンプ力・パワーの向上を阻害するかも?といったことを示唆しているに過ぎません。
例えば花粉症の薬だって、薬剤師さんに眠くなるかもって言われて処方されたりします。
それでも服用するのは
【花粉症の症状がツライという人】にとって
【眠くなるというデメリット】よりも
【花粉症の症状が抑えられるというメリット】が上回るから。
ですよね?
そのためジャンプ力やスプリントスピードの向上が目的でなく、他のものが目的であれば、そしてそのメリットがデメリットを上回るのであればむしろやったほうが良いでしょう。
例えば、ディスクを用いた傷害予防エクササイズは、通常の床面で行うよりも効果があったことを示唆する研究もあります(Wedderkopp et al., 2003)。
そのため、慢性的な傷害、例えば捻挫の繰り返す再発に悩まされている選手の場合、
身体能力の向上よりも、バランス能力向上⇒傷害の再発予防を重視したいのでディスクを用いたトレーニングを選択する。というのもありでしょう。
デメリットを消して、メリットだけを享受すれば?
デメリットとメリットを天秤にかけることを基本に考えつつ、
「メリットだけ享受してデメリットを消せばええやん?」
といった発想(第3の選択肢)を持つことも大切です。
例えば薬の処方だって、胃が荒れるというデメリットを他の薬で相殺することだってありますよね?
ディスクの例で言えば、「力発揮の非効率性の獲得」が起きないようにするにはどうすればよいかを考えます。
バランスを取りながらディスク上でランジやスクワットをすること(下肢の屈曲ー伸展をすること)で力発揮の非効率性を獲得してしまうのであれば、ディスクにのった軸足の屈曲ー伸展をするんじゃなくて、ただ立位でその姿勢をキープするor遊脚の運動でバランスに負荷をかける、、なら大丈夫なんじゃね?といった発想とか。
ただし、↑は僕の推測が大きいので、本当に阻害効果がなくなるかは分かりません。(誰か検証してください)
話は少し反れますが、こういった「~なんじゃね?」という発想(下図ピンク部分)を実際に検証し、検証された事実の蓄積(赤部分)を広げてきたのがスポーツ科学なんです。
まとめ
いろんなトレーニング方法が出回っている昨今、
「〇〇トレーニング、けっこう良いみたいだよ!」
「〇〇大事って△△さんが言ってた!」
っていう単調な思考になることはすごく楽です。
ただ、先ほど述べた通り、トレーニングには薬と同様にポジティブな効果と副作用が混在するもの。(もちろん、疲労というのも1つの副作用でしょう)
しっかりと頭を凝らすことは『楽』ではありませんが、けっこう『楽しい』ものですよ!
執筆者:佐々部孝紀
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参考文献
Cressey, E.M., C.A. West, D.P. Tiberio, W.J. Kraemer,
and C.M. Maresh.
The effects of ten weeks of lower-body
unstable surface training on markers of athletic performance.
J.Strength Cond. Res. 21(2):561–567. 2007.
Anderson, K.G., and D.G. Behm.
Maintenance of EMG activity and loss of force output with instability.
J.Strength Cond. Res. 18(3):637–640. 2004
Wedderkopp, N, Kaltoft, M, Holm, R, and Froberg, K.
Comparison of two intervention programmes in young female players in European handball – With and without ankle disc.
Scand J Med Sci Sport 13: 371–375, 2003.
興味深い研究と考察です。
逆に、スクワットやデッドリフトのような安定群の種目をさらに安定性を高めて行うと効果的という可能性も考えられないでしょうか?フリーバーのスクワットではバランスを崩しかねないくらいの爆発的な動作をスミスマシンスクワットで行ったり、という感じです。
投擲の選手などがベンチプレスを補助者付きで猛烈な爆発的動作で行なっているのはよく見る気がします。
読み返してみると、「スクワットやデッドリフトのような安定群の種目」という言葉はおかしかったですね。安定群も不安定群も実施している種目ですから。
要は、スクワットやデッドリフトなどのメジャーな種目でも「力発揮の非効率性」がある可能性はあるのではないか、という意味です。もっと安定性の高いトレーニングにすることでさらにパフォーマンスが上がる可能性はあるかもしれないと思います。