【第97回】ストレッチに効果がないってほんと?
ストレッチに効果がないってほんとでしょうか?
もちろん『何に対しての効果』かということにもよりますが、様々な議論がありますよね。
・ストレッチに傷害予防の効果はなかった
・ストレッチにはリカバリーの効果がなかった
・ストレッチはパフォーマンス(スプリントやジャンプ力)を向上させない
いろんな情報がネット上であふれていますし、実際僕もSNS上でそのようなことを示唆する研究をシェアしたりもしています。
実際、「伝統的に思われていたほどの効果がない」というのは事実だと思います。
しかし、果たしてストレッチを実施することに本当に意味がないのでしょうか
ストレッチの目的
この記事では、ストレッチ=静的ストレッチに限定して話を進めていきます。
ストレッチの目的は「柔軟性の向上」です。
まあこれは誰でも知っていることですよね。
そして伝統的に考えられてきた「柔軟性の向上」の目的は「傷害予防」「パフォーマンスの向上」です。
なんとなく理にかなっているような気もしますよね。
しかし、最近は
ストレッチには傷害予防の効果が認められなかった。
ストレッチを実施するとむしろ直後のパフォーマンスが低下した。
といったデータも発表されています。
しかしそれでも僕はまだ現場でストレッチを活用しています。
ストレッチが効果を発揮しなかった理由
まずは以下の図を見てください。
冒頭で紹介した図に、そのまま別の言葉を当てはめてみました。
この流れも、まあ理にはかなってますよね。
では、タンパク質摂取量の増加が、ジャンプ力向上について与える影響について研究してみたらどうなるでしょう?
個人的には、そんなに大きな効果がはっきりと表れるとは思えません。
何故なら
●タンパク質摂取が筋力向上に寄与はするが、そもそもトレーニングの内容もすごく重要
●筋力向上をしても高いレベルであれば特に、ジャンプ力を高めるようなトレーニング(プライオメトリクス)をしないとジャンプ力は高まらない場合が多い
というふうに、「タンパク質摂取」というのは、「ジャンプ力向上」に寄与する『間接的な要因』であるうえ『複数ある要因のうちの1つ』だからです。
ストレッチがどのように傷害予防に寄与するのか?
ぶっちゃけていうと、傷害を予防しようと思ったらストレッチよりもウエイトトレーニングやプライオメトリクス、バランストレーニングを含む自体重の傷害予防エクササイズのほうが優先順位は高いです。
しかし、ウエイトトレーニングで筋力をつけることや、自体重の傷害予防エクササイズで正しい動きをみにつけるための「ベース」に「柔軟性(≒可動域)」が貢献すると考えられます。
例えば、RDL、膝をあまり屈曲させないデッドリフトではハムストリングスがすごく伸びます。
このエクササイズ自体でも可動域は向上するのですが、そもそもハムがめちゃくちゃ固い選手だと、そもそも十分な関節角度でエクササイズが行えません。
その場合は先に、もしくは同時並行でストレッチを行い、可動域を向上させつつ筋力も獲得していくといった方法も考えられます。
同様に、正しい動き(下肢をしっかり曲げた接地、股関節主導の動作)獲得を目的としたエクササイズの場合も同じで、そもそも可動域がないと正しい動きと言われる動作ができない場合、先にストレッチで可動域を確保した後に動作を獲得していくと、それが容易になるかもしれません。
少し話は反れますが、観察研究では「可動域が広い選手のほうが傷害発生率は低い」といったデータはいくつか報告されています。
それなのに「ストレッチを実施しても傷害発生率は低下しなかった」という報告がされているのは、ストレッチをするだけでは大きな可動域を獲得できるだけで、それをベースとした「大きな可動域での出力」「可動域を活用した正しい動作の獲得」ができなかったからではないでしょうか。
まとめ
・ストレッチはそれ単体では求める効果を発揮しないかもしれない
・ストレッチで獲得した可動域を活用して、筋力獲得、動作獲得をすることで大きな効果を発揮する?
今回は傷害予防に焦点を当てましたが、パフォーマンスに関しても同様に、特にピッチングのように大きな可動域をつかってボールに力積を与えるような動作では、「可動域の獲得⇒それを使いこなす技能の獲得」でパフォーマンスは上がるかもしれません。
しかしストレッチ直後で出力が一時的に低下するのは間違いなさそうなので、実施するなら運動後がいいかもしれませんね。
少し推測が多い記事になってしまいましたが、みなさんなりにストレッチの意味を再検証してもらえるきっかけとなってもらえれば!
セミナー開催やチームのシーズン初めのなんやかんやで久々の更新となってしまいました。。
明日から新年度ですね。
2019年度は新たに大学の講師や母校の施設でアスリートのサポートなど、様々なことにもチャレンジさせていただきます!
参考文献
Lauersen, Jeppe Bo, Bertelsen, Ditte Marie, and Andersen, Lars Bo
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Does pre-exercise static stretching inhibit maximal muscular performance? A meta-analytical review
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Witvrouw, Erik, Lysens, Roeland, Bellemans, Johan, Cambier, Dirk, and Vanderstraeten, Guy
Intrinsic Risk Factors for the Development of Patellar Tendinitis in an Athletic Population
THE AMERICAN JOURNAL OF SPORTS MEDICINE, Vol. 29, No. 2