【第85回】レッグプレスとかいう最高のモビリティエクササイズ
「股関節の可動性(柔軟性)がスポーツには大事だ!」
とよく言われます。
確かに股関節の可動性は高いパフォーマンス発揮にも、膝の傷害や腰痛などの予防にも必要です。
「だからウエイトトレーニングなんかよりモビリティエクササイズや自体重トレーニングに重点を置こう!」
と続くと、うーん、、という思いになります。。
ウエイトトレーニングは万能だ!なんでも解決できる!なんてことは思っていないですが、
きちんとしたウエイトトレーニングを行うことで、確実に柔軟性は向上します。
これは多くの研究でも示されていることですし[1,2,3]、研究なんて信用できないな~という方は身近なウエイトリフターに開脚や前屈でも見せてもらってください。
また、これらの研究でさらに詳しく示されているのは
・可動域全体を使っての大きな動き[3]
・低強度(~50%RM)よりも高強度(80%1RM~)[1]
のトレーニングのほうがより大きな柔軟性向上を示したということ。
このデータから、どのような種目が柔軟性の向上により有効か?が考察できます。
もちろんスタティックストレッチを活用する場合もありますが、最終的には獲得した可動域の中での筋力も身に着けたいですよね。
特に「股関節の屈曲可動域」に着目した場合、僕がよく用いるのはRDLと最近有効性を感じ始めたレッグプレスです。
股関節屈曲可動域の制限因子は?
股関節屈曲可動域の制限因子として特に重要なのは、股関節伸展筋群(大殿筋、ハムストリングス、内転筋群の一部など)の柔軟性です。
他にも伸展筋群以外の股関節周囲筋の機能不全・タイトネスや、そことも関連した股関節のインピンジ(FAI)なども制限因子として考えられますが、今回は股関節の伸展筋群のタイトネスに着目していきます。
ハムの柔軟性の改善ーRDL
ハムストリングの柔軟性の改善に有効な種目として有名なRDL(ルーマニアンデッドリフト)。
RDLではバーを保持した立位姿勢から、以下の写真のように股関節を軸に身体を前傾させていきます。
ポイントは写真にも記載してある通り
・肩甲骨を寄せること
・バーを身体に沿わせること
・腰の自然な反りをキープすること
・膝は軽度屈曲位
などです。
※さらに細かい実施方法についてはこちらで河森さんが説明してくれています。
正しいフォームを維持することが最優先で、そのフォームを保ったまま体幹部が水平になるまで倒すことを目標にしましょう。
柔軟性が足りていない状態or無理な重量で行うと、腰が丸まってしまい、ターゲットであるハムストリングに負荷がかかりません。
股関節伸展筋群の柔軟性の改善ーレッグプレス
RDLは非常に有用なエクササイズですが、膝を伸展位に近い状態で行うので他の股関節伸展筋群に伸張性のストレスが加わる前にハムストリングがブレーキになってしまいます。
そのため、股関節の十分な可動性を出すにはスクワットやリバースランジ、ブルガリアンスクワットなど、膝を屈曲位で行うエクササイズも併用する必要があるのですが、最近はレッグプレスの有用性に気づき始めました。
まず、スクワットなどバーベルを担いだ運動を高強度で行う場合、他の関節の制限に大きな影響を受けます。
足関節の背屈可動域が足りなければ深くまでしゃがむことは難しいですし、体幹部の剛性不足があれば背中が折れてしまい、その影響で骨盤が後傾し、股関節への負荷が逃げてしまうといったこともあり得ます。
もちろん最終的には個別のエクササイズで足関節の可動性を改善し、体幹部の剛性を獲得して(おすすめはオーバーヘッドSQやフロントSQ)、きちんとしたスクワットを高重量でできるようになる必要はあります。
一方でそれらと並行してレッグプレスを行うことで、股関節の筋力、柔軟性を効率的に獲得することができるのです。
レッグプレスの利点
なぜレッグプレスが股関節の柔軟性向上に有効かというと、上記で紹介した柔軟性向上に貢献する要素
大きな範囲での関節運動、かつ高強度の負荷をかけやすいからです。
レッグプレスでは足部を置く位置を工夫すれば、足関節の背屈可動域が不足していても十分に股関節を屈曲させることができます。
また、レッグプレスでは重りを担いでバランスをとる必要がないので、バックスクワットよりも俄然大きな負荷がかけられます。
ただ、他のトレーニングと同じで、やり方を間違えると目的とした負荷がかけられないので、いくつか注意点を覚えておいてください。
・股関節をしっかり屈曲させて伸展筋群に負荷をかけたい場合、足部を置く位置は板の上のほうにします。
・つま先は少し外向き(~20度くらい)で、降ろすときは軽く膝を開いていきます。
・あくまでも股関節を屈曲させることが目的なので、腰椎、骨盤はニュートラルを保ち、股関節から屈曲させていきましょう。
背部のシートのどこに圧力を感じているかでセルフチェックができます。
骨盤に圧力を感じられたらOK、逆に腰椎あたりの圧力が強いと骨盤が後傾しているということになります。
まとめ
なじみはあるものの、健常なアスリートには意外と行われることの少ない(?)レッグプレスについて紹介しました。
最終的には高重量、正しいフォームでスクワットを行う必要がありますが、筋肉の柔軟性不足からくる股関節の可動性不足のアスリートに対してはRDLと同様、非常に有効なエクササイズです。
是非選択肢の1つとして考えてみてください!
執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)
ストレングスコーチを務めているアメフトチームも秋のシーズンが始まりました。
開幕から2連勝。このまま突っ切っていってほしいです!
参考文献
1. Fatouros, IG, Kambas, A, Katrabasas, I, Leontsini, D, Chatzinikolaou, A, Jamurtas, AZ, et al. Resistance training and detraining effects on flexibility performance in the elderly are intensity-dependent. J Strength Cond Res 20: 634–42, 2006.Available from: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16937978
2. McMahon, GE, Morse, CI, Burden, A, Winwood, K, and Onambélé, GL. Impact of range of motion during ecologically valid resistance training protocols on muscle size, subcutaneous fat, and strength. J strength Cond Res 28: 245–55, 2014.Available from: http://journals.lww.com/nsca-jscr/Fulltext/2014/01000/Impact_of_Range_of_Motion_During_Ecologically.32.aspx%5Cnhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23629583
3. Thrash, K and Kelly, B. Flexibility and Strength Training. J Appl Sport Sci Res 1: 74–75, 1987.
いつもためになる記事をありがとうございます、勉強させて頂いてます。
今まで柔軟性の改善にウェイトトレーニングを組み入れる場合には、最大可動域でやり易い様に低負荷高回数でやらせていたので正に目から鱗です。
ただ困った事に私の勤務先で導入しているレッグプレスのマシンはシートに謎のカーブが施され、背もたれに密着して座ると骨盤が後傾し腰が丸まります。フットプレートの角度も常に足関節が底屈する様になっているので、わざわざ体の固い人(姿勢の悪い人?)に合わせた設計思想なのかもしれません。本末転倒だろうと思うんですけどね……。
他にも同じマシンを導入している施設は複数あると思いますので、世の中には疑問を持たざるを得ない様なマシンも存在する事をご報告します。
先日ブログを書いてて同じ事をどっかで書いた覚えがあるなぁ?と思ってたけど、このコメントだった(^_^;
約2年前か……。
ちなみにレッグプレスに限らずトレーニングマシンで骨盤が後傾するほどカーブの付いたシート形状に何かメリットは考えられますか?