【第72回】GVT《ジャーマンボリュームトレーニング》総負荷は高けりゃいいってもんでもない
筋肥大のキーファクターはトレーニングの総負荷(Total Load)[強度(重量)×レップ数×セット数]である。
以前の記事でも説明した内容ですが、近年のトレーニング科学の世界では徐々に広まってきた事実です。
そのため総負荷を稼ぎやすい高レップのセットは、筋肥大を目的としたプログラムによく組み込まれるのです。
では、総負荷は稼げるだけ稼いじゃったらいいのでしょうか?やればやるほど身体はでかくなるのか?
10回×100セットなんてやったら、逆にオーバートレーニングになるのは容易に想像できますよね。。
では、どの程度のトレーニングボリュームだとプラトー(それ以上ふやしても意味がない状態)もしくは逆効果になってしまうのか。
本日はその一情報となりえる研究をご紹介します。
ジャーマンボリュームトレーニング(GVT)
ジャーマンボリュームトレーニング(以下:GVT)とは、1970年代にドイツのウエイトリフターの間でよく用いられたと言われるトレーニング法で
・60%1RMもしくは20RMほどの強度で
・10レップを10セット(計100レップ)
・レストは60~90秒
で行う、非常に高ボリュームなトレーニングです。
ボリューム(レップ×セット)が大きくなるので、必然的に総負荷(強度×レップ×セット)も大きくなります。
筋肥大のキーファクターはTotal Loadですので、ウエイトリフターの間でも、筋肥大やトレーニングキャパシティーの増加を目的としたオフシーズン中に行われることがあるそうです。
さてそのGVTですが、実は今までその効果が科学的に検証されたデータ(厳密に管理されたトレーニング効果の報告)があまりないらしく、2017年に以下の実験が行われ(1)、発表されました
「10レップ×10セットという非常に高ボリュームなトレーニング(GVT)は、10レップ×5セットというそこそこに高ボリュームなトレーニングより本当に効果的なのか?」
この研究では10レップ×10セットのトレーニングをGVT、10レップ×5セットのトレーニングをModified GVTと定義しています。
被験者のは1年以上トレーニング経験のある男性(19~24歳)19名
GVT、Modified GVTの2つの群にランダムに振り分け、週3回、6週間のトレーニング効果(筋肥大、筋力向上)を比較しました。
トレーニングの実施方法はSplit Routineで実施種目は以下
Day1
ベンチプレス
ラットプルダウン
インクラインベンチプレス
シーテッドロウ
クランチ
Day2
レッグプレス
ランジ
レッグエクステンション
レッグカール
カーフレイズ
Day3
ショルダープレス
アップライトロウ
トライセプスプッシュダウン
バイセプスカール
シットアップ+ツイスト
各Dayの最初の2種目(太文字)をメイン種目とし、その2種目をGVTもしくはModified GVTとして行っています。
その結果
徐脂肪体重(≒筋肉量)の増加は両群間で有意差なし(p>0.05)
筋力に至っては以下のようにModified GVTのほうが向上した傾向にありました。
ベンチプレス
Modified GVT>GVT
ES=-0.43
p=0.014
ラットプルダウン
Modified GVT>GVT
ES=-0.54
p=0.003
レッグプレス
Modified GVT≧GVT
ES=-0.36
p=0.27
総負荷が高ければ高いほど良いというわけではない
以上の結果から、筋肥大への効果についてはModified GVTに対するGVTの有効性は示されませんでした。
言い換えると、「総負荷が高ければ高いほど筋肥大を引き起こすといったことは言えない」ということです。
筋力の向上がModified GVTのほうが大きかったことからも、GVT群ではオーバートレーニング気味になっていたのでは?という推測ができます。
(できれば研究内でコルチゾールの値なども取っててほしかった。。)
ただ、これは今回の被験者程度のレベルの場合。
今回の被験者(GVT群)のベースラインの体重・筋力(1RM)の平均値は
体重
(77.5±7.1kg)
ベンチプレス
(79.7±15.5kg)
ラットプルダウン
(68.7±10.6kg)
レッグプレス
(295±40.2kg)
と決して強いとは言えません。
この被験者よりもレベルの高い人たちだと、GVT(10レップ×10セット)であってもその負荷に耐えられ、Modified GVTよりも大きな筋肥大を示す可能性はあります。
まとめ
筋肥大のキーファクターはトレーニングの総負荷(強度×レップ×セット)ですが、総負荷が大きければ大きいほど良いというわけではないようです。
このような総負荷ごとのトレーニング効果を比較した研究・報告は他にも複数あるので、それらを見比べたうえでレベルに合った適切な負荷をかけるのが良いということですね。
執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)
だんだんと2018年の週間のスケジュールも少しずつ埋まってきました。
毎年何かしら新しい取り組みが始まるのですが、それが今年は比較的多くなりそうです。
こういうお話がいただけるのも人とのつながりやご縁のおかげだなあと実感しております。
今年も謙虚にがんばっていこうと思います。
参考文献
- Amirthalingam, T, Mavros, Y, Wilson, GC, Clarke, JL, Mitchell, L, and Hackett, DA. Effects of a Modified German Volume Training Program on Muscular Hypertrophy and Strength. J Strength Cond Res 31: 1, 2016.Available from: http://insights.ovid.com/crossref?an=00124278-900000000-96210