【第69回】トレーニングは部位ごとに行うべき?全身を行うべき?
トレーニングの組み方には様々な方法がありますよね。
強度(%1RM)、回数、セット、レスト、、、
効率的に筋肥大をしたければ強度を少し落として回数を増やすことでボリュームを確保するのが良いでしょうし、筋力向上が目的であれば(さらに対象がすでにある程度筋力を獲得している選手であれば)高い強度でトレーニングを行うことが必須になります。
そしてセッションの中でエクササイズをどのように組み合わせるか、どの順番で行うのかといったことも重要になってきますよね。
また、週あたりのトレーニングメニュー・ボリュームが同じであっても、それをどのように振り分けるかによってトレーニングプログラムの形は変わってきます。
代表的な形として、
・Split-body Routine(SPLIT)
・Total-body Routine(TOTAL)
といったものがあります。
SPLIT vs TOTAL
SPLITの場合、1セッションの中で特定の筋群をターゲットに高ボリュームでトレーニングを行います。
行い方によっては週6回のトレーニングも可能で、筋肥大のためにボリュームを確保したいボディビルダーの方たちがよく行うトレーニング方法です。
TOTALの場合は特定の筋群に限定せず、1セッションで全身(または複数の部位)のトレーニングを行います。
ここで生まれる疑問として、
「週のトータルのトレーニングボリューム(種目ごとの回数×セット)が同じであれば、どちらが筋力向上や筋肥大に効果的なのか?」
ということ。
ここで効果の差があれば、あるとしたらどの程度の差なのかによって、スポーツ現場でのトレーニングの組み方は変わってきますよね?
INFLUENCE OF RESISTANCE TRAINING FREQUENCY ON MUSCULAR ADAPTATIONS IN WELL-TRAINED MEN
Schoenfeld et al., 2015
この問いに対してSchoenfeldらが2015年に研究を行っています。
上記の図のように、全身を3つの部位に分けたうえで各セッションで1つの部位を高ボリュームで行うSPLIT群と、1つのセッションで3部位を行うTOTAL群に分け、8週間トレーニング効果を比較しました。(その際、1週間でのトレーニングボリュームは両群で揃えました)
8週間トレーニングを行ったところ、総負荷(重量×ボリューム)には両群で有意差はみとめられませんでした。
筋力の変化 SPLIT vs TOTAL
筋力の変化(スクワット、ベンチプレス)に関しては
SPLITとTOTALの間で有意差は認められませんでした。
つまり、週あたりの総負荷さえ同じであれば、どのようにトレーニングを分配しても筋力獲得への効果に大きな差はないといったことが言えそうです。
例えば毎週土日が試合のため週末に下肢に大きな負荷がかけられないアスリートは、SPLIT-Routineを用いて週の頭にまとめて下肢のトレーニングを行ってしまうといった方法もとれそうですね。
一方でバスケットボールのように、上肢に大きな負荷がかかることでシュートタッチにも影響がでそうなアスリートの場合は、週の頭に下肢も上肢も高ボリュームで行ってしまいたいところですが、その場合の効果についてはこの研究だけでは断言できません。(高ボリュームの下肢のトレーニングを行うことで、その後の上肢のトレーニングの総負荷に影響がでることも考えられるので)
しかしながら試合期であればそもそもそこまで週のトータルボリュームも大きくないですよね?
ということで僕は試合期のバスケットボール選手の場合は週の頭に全身の高ボリュームのトレーニングを行うようにしています。
筋肥大への効果 SPLIT vs TOTAL
一方でこの研究では上腕二頭筋、上腕三頭筋、外側広筋の筋厚も測定しています。
その結果、上腕二頭筋の筋厚の増加はTOTAL(高ボリュームの週1回ではなく、分割て週3回)のほうが有意に大きかったようです。
(一方、他の2部位でもTOTALのほうが増加量は大きかったものの、有意ではありませんでした)
また、それも踏まえてもう一度1RMの増加を見返すと
スクワット
SPLIT:10.6%↑
TOTAL:11.3%↑
p=0.52
ベンチプレス
SPLIT:6.8%↑
TOTAL:10.6%↑
p=0.14
と、上肢に関してはさらに長期介入をするともしかしたら有意差がでるんじゃないかなーと思わせる値です。(今回の研究は8週間)
まとめ
8週間の介入であれば、SPLITを用いてもTOTALを用いても筋力獲得、筋肥大に有意な差はないようです。
そのため、競技特性や試合のスケジュール、ウエイトルームの使用状況を考えてプログラムを組むのが良いでしょう。
SPLITを用いた場合は特定の部位の翌日の疲労が大きくなりますが、競技練習中に疲労感はハリがあると嫌な部位はオフ前にまとめて行っても良いでしょう。
筋肥大への効果は若干TOTALの方が優れているように見えますが、これはあくまでも「週あたりのボリュームが同じなら」ということ。
SPLITのほうがボリュームがかせげるなら、むしろSPLITのほうが筋肥大には効果的かもしれません。
強度(重りの負荷)が落ちる分、筋力獲得も筋肥大も効果が多少下がる可能性がありますが、「ウエイトルームが使えるのが週1回」などのスケジュールの都合によっては全身の高ボリュームのトレーニングを1日でまとめてやっちゃう。といった方法もありかもしれません。(誰か研究してください!笑)
「エビデンス」っていうとなんだか堅っ苦しく、融通が利かないイメージを持っているかたもいるかもしれませんが、適度な距離で付き合うことで、こんなふうに逆に想像力を膨らませてくれます。
もっといろんな人にこの楽しさを知ってほしいです!
執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)
最近、釣りや登山といったアウトドアにはまっています。
先日は10歳のいとこと2人で高尾山に登ってきました。
紅葉シーズン、週末ということもあり、とんでもない人の多さでした。。。笑
東京近郊で落ち着いた雰囲気でちょうどいいレベルの山があれば教えてください~
参考文献
- Schoenfeld, BJ, Ratamess, NA, Peterson, MD, Contreras, B, and Tiryaki-Sonmez, G. Influence of Resistance Training Frequency on Muscular Adaptations in Well-Trained Men. J Strength Cond Res 29: 1821–1829, 2015.Available from: http://content.wkhealth.com/linkback/openurl?sid=WKPTLP:landingpage&an=00124278-201507000-00008