【第66回】捻挫予防にはテーピング?サポーター?
このサイトはタイトルの通り「トレーニング科学」のことについて主に発信しておりますが、佐々部はS&CコーチとしてだけでなくATとしても活動してますので、自分の勉強のためにもたまにはメディカル系の記事もまとめようと思います。
さて、AT(アスレティックトレーナー)の仕事は?と聞かれたら、割と多くの人がその中の1つとして「テーピング」を思い浮かべるのではないでしょうか。
テーピングといえば足首の内反捻挫予防のテーピングが最もポピュラーでは?
また、テーピングと同様に、足関節の捻挫の予防に対してはサポーターを巻いているという人もいるかと思います。
同じ目的で用いられるこの2つですが
テーピングのメリットとしては
・個人に合わせた調節が可能
サポーターのメリットとしては
・繰り返し使えるのでテーピングよりも経済的
といった特徴があると考えられます。
ここで浮かんでくる疑問が
サポーターと標準的な足関節のテーピングだったらどっちの効果が高いの?
そもそもテーピングやサポーターを巻くことでどれくらい捻挫を予防できるの?
ということ。
この2つにそもそも予防効果の大きさの差があったら、好みや経済的な理由だけでなく、その効果の差を考慮に入れて選ぶ必要がありそうです。
またテーピングやサポーターで得られる予防効果がごくわずかであれば、動きづらさというネガティブな面と天秤にかけて、あえて使用しないという選択肢も生まれそうですよね。
さて研究ではどのような報告がなされているのでしょうか。
テーピングvsサポーター
まずはこの2つの効果の差をみてみましょう。
Dizon and Reyes(2010)はそれまでに行われたテープorサポーターが足関節捻挫の発生に与える影響について調べた研究を集め、メタ解析を行いました。[1]
その結果、以下の表のような結果を示しています。
サポーター | テープ | |||
既往なし | 既往あり | 既往なし | 既往あり | |
OR | 0.57 | 0.31 | 0.60 | 0.29 |
95%CI | (0.21~1.56) | (0.18~0.51) | (0.19~1.89) | (0.14~0.57) |
※OR(Odds Rate):介入によってどの程度発症率が変化したかを示す値。1未満だと発症率が低下したことを示す。
表の通りサポーターとテーピングで捻挫への予防効果の差はなさそうです。
また、面白いことに既往歴なしの選手(初発予防)に比べて、既往歴ありの選手(再発予防)に対する効果のほうが大きく(ORが小さく)なっています。
既往歴なしの選手に対するテーピング・サポーターのORは95%CIが0をまたいでいるため、初発予防には確かな効果があるとは言えない一方で、既往歴ありの選手の場合は95%CIが0をまたいでいないため、再発予防には確かな予防効果があると言えます。
どの程度捻挫の発生を予防するの?
一方で上記の研究は予防効果の大きさについてORで算出しているため、その数値をそのまま下がった発症率(%)だと解釈はできません。
そこで他の研究もあたってみると、Verhagenのレビュー論文[2]で足関節発生予防に関するRCT(ランダム化比較実験)についてまとめられており、
サポーターの捻挫への予防効果を検討したRCTは6つ抽出され、
そのRR(Relative Risk)は0.15~0.5と、およそ15%~50%まで発症率を抑えることができることが示されました。
テープ、サポーター以外の足関節捻挫の予防方法
また、上記の論文[2]ではテーピングやサポーター以外の予防法についても検討しており、その中でも最も研究数が多く、効果が高かったものとして、Neuromuscular Trainingを挙げています。(RR=0.15~0.4)
いわゆる、バランストレーニングですね。
論文の著者も「現在のエビデンスに基づくと、テープorサポーターとNeuromuscular Trainingの組み合わせが、捻挫の発生を予防するためのベストな方法だと考えられる」と述べています。
まとめ
足関節捻挫の予防にはテーピングやサポーターが考えられるが、両者で予防効果の違いはなさそう
そのため、好みや経済的な負担を考えて使い分けるのがよいのでは
発生率はおよそ15~50%まで低下させることができ、その効果は捻挫を受傷したことのある選手でより大きくなる。
※逆に、初発の予防には確実な効果があるとは言えない
テーピングやサポーターだけではなく、バランストレーニングも併用したほうがより捻挫の発生率は下げられる
足関節捻挫の繰り返しの再発に苦しんでいる選手は非常に多いと思います。
ただ、中には受傷したとき「テーピング巻くのがめんどくさくて巻いてなかった。。」「時間なくてバランストレーニングさぼっちゃってた。。」なんて選手もいるのでは?
それでは自己責任ですよね。
テーピングもサポーターもバランストレーニングも、科学的にしっかりと効果が証明されている予防法です。
怪我をしないことも能力の1つ。今一度「予防」についても考えてみてください!
佐々部孝紀(ささべこうき)
参考文献
- Dizon, JMR and Reyes, JJB. A systematic review on the effectiveness of external ankle supports in the prevention of inversion ankle sprains among elite and recreational players. J Sci Med Sport 13: 309–317, 2010.Available from: http://dx.doi.org/10.1016/j.jsams.2009.05.002
- Verhagen, EALM and Bay, K. Optimising ankle sprain prevention: a critical review and practical appraisal of the literature. Br J Sports Med 44: 1082–1088, 2010.Available from: http://bjsm.bmj.com/cgi/doi/10.1136/bjsm.2010.076406
参考になります。こうした「どっちが効果的?」みたいな質問を受けるとつい自分の経験や聞きかじりの情報を元に答えてしまいがちなので、ちゃんとしたデータが有ると自信を持ってアドバイス出来ます。
記事の主旨からは少し外れるかもしれませんが、既往歴の有る人ほど効果的という事とバランストレーニングに同等以上の効果が有る事から、頻繁に捻挫しやすい人は動きに不安定な癖が有る(捻挫しやすい体の使い方をしている?)と考えても良いでしょうか?
テーピングやサポーターは足首に制限をかける事で癖を矯正し、バランストレーニングは正しいアライメントを維持する能力を習得していると解釈しました。
もちろん受傷によって腱や靭帯が緩んだままになっているという事も有るでしょうが、バランストレーニングにここまでの効果が期待出来るなら単に外科的要因だけではないように思います。
既往歴のない人はそもそも捻挫しやすい体の使い方をしていないから、逆にこうした恩恵を受けにくいのかと。
コメントありがとうございます。
繰り返される捻挫によって足関節に不安定性が生じますが、そのような慢性的な不安定性をCAI(Chronic Ankle Instability)と言い、CAIを引き起こしているのがFI(Functional Instability)とMI(Mechanical Instability)だと言われています。
FIはどちらかというと動きのクセや神経筋の機能によるもの、MIは靭帯の損傷、伸長による構造的な不安定性によるものだと言われています。
テーピングがFIの改善に貢献するのかMIの改善に貢献するのかは様々な議論がなされていますね。
CAIについて詳しいことはGoogle Scholarで調べるとすぐに出てきますので是非チェックしてみてください!
ありがとうございます。
捻挫についてはよく相談される反面「もう癖になってるから」と半ば諦めてる方が多いので、適切なアドバイスが出来るように私自身もっと勉強しなければと思っています。