【第111回】(続)スポーツ選手も物理学を知ることでパフォーマンスが上がる?②~パワーへの理解を深める

前回の記事では、スポーツ選手が『力積』を理解することのメリットについて触れました。

その中で『パワー』の概念にも少し触れましたが、実は『パワー』というものも、とても奥が深いのです。。

言葉的には『力積』よりも『パワー』のほうがなじみが深いと思いますが、初めにもう一度『パワー』についておさらいしておきましょう。

パワーとは?

パワーとは『力』×『速度』のことで、日本語に直すと『仕事率』です。

ちなみに『力』×『距離』、つまり力を加えてどれくらいの距離を移動したかのことを『仕事』といい、その仕事を『時間』で割ったもの、つまり時間あたりの仕事が『仕事率』になります。

※『距離』を『時間』で割ると『速度』になりますよね?そのため『力』×『速度』が『仕事率』になるのです。

そのため、『パワー』を高めるためには『力』を高める方法と『速度』を高める方法があるということになります。

ここで少し余談なのですが、ウエイトリフティングとパワーリフティングという競技があります。

『ウエイトリフティング』はバーベルを肩や頭上まで勢いをつけて一気に持ち上げなければならないので、比較的『パワー』が必要になります。

『パワーリフティング』はスクワットなどの最大挙上重量が求められるので、ウエイトリフティングほどバーベルの挙上の速度は必要ありません。そのため『パワー』というよりも『力』が求められます。

もちろん、パワーリフティングであっても『力』を発揮しながらバーが移動している(ある程度の『速度』がある)のでパワーは発揮していますが。

あくまでも【物理学的な用語としては】ですけど、この違いは面白いですよね。

運動方程式: F=ma

パワーは『力』×『速度』で決まると説明しました。

ここでもう少しスポーツの世界での基礎となる物理学的知識を紹介します。

運動方程式という式で、F=maというものがあります。

各文字の意味は
F⇒力
a⇒加速度
m⇒質量
といったものになります。

これをスポーツの世界、例えばジャンプ動作などに応用すると、
F⇒地面を押す力(それによってもらえる反発力)
a⇒身体の上方向への加速度
m⇒自体重
になります。

F=maの式に当てはめると、地面を押す『力』が大きくなれば、身体の上方向への加速度が大きくなり、間接的に『速度』も大きくなります。

その結果離地時の速度が大きくなり、高く跳べるというわけです。
(厳密には、ジャンプ高の決定因子は力積ですが。前回の記事を参照)

そのため、スクワットなどのトレーニングで『力』を高めることで、『速度』も間接的に大きくなるため、トレーニングは大事になるわけですよね!

という結論で終わらせることもできるのですが、、

先ほど『パワー』を高めるには『力』を高めるか『速度』を高める方法がある。

と紹介しました。

でも『力』を高めることで間接的に『速度』も高まる。という結論になれば、

結局『力』さえ高めれば良いってこと?という疑問も生まれます。

筋の力ー速度関係

ここで重要になってくるのが、『筋の力ー速度関係』です。

実は筋肉には『収縮速度が速くなればなるほど、出せる力は小さくなる』といった特性があります。

例えば、急斜面を高スピードで下っている自転車をイメージしてください。

その状態でペダルを漕いで『力』を加えようとしても、回転数が高すぎると空漕ぎになってうまく『力』を加えられませんよね?

逆に上り坂であれば自転車のスピードがでないため、『速度』は小さくなりますが出せる『力』は大きくなります。

要するに人間の筋肉は、F=maに従って、力と比例していつまでも加速度、速度が大きくなるわけではなく、
パワー発揮の中にも『大きな速度』×『小さな力』のパワー発揮もあれば『小さな速度』×『大きな力』のパワー発揮もあるということです。

そしてそれを先ほどのバーベル競技や各運動に当てはめると

パワーリフティング(スクワットの最大挙上重量など)
⇒『大きな力』×『小さな速度』

ウエイトリフティング(クリーンなどのクイックリフト)
⇒『中程度の力』×『中程度の速度』

自体重のジャンプなど
⇒『小さな力』×『大きな速度』

になります。

その掛け算の合計(パワー)が大きくなるのがクイックリフトなどで発揮するパワーになるので、一般的にそれらが『パワートレーニング』と呼ばれます。

しかし厳密には力を出しながらのコンセントリックの収縮を伴えば、広い意味ではすべてパワートレーニングと言えるでしょう。

※もちろん、アイソメトリックの収縮(空気イスのような状態)ではパワー発揮をしているとは言えません!

Vmax:負荷が0での理論上の速度

Fmax:発揮できる最大の力。Vmax=0の部分と交わるところになるので、=アイソメトリックの最大筋力ともとらえられる。

(力ー速度関係については4年前にも記事を書いてたようです。。!詳しくはそちらの記事でも!)

ちなみに力ー速度関係≒力ー速度曲線ととらえられることもありますが、必ずしも曲線にはならないようです!

様々なパワー発揮を鍛える

トレーニングをする上で、単純な概念としては

第一段階:スクワットなどで『力』を鍛える

第二段階:クリーンなどのクイックリフト(もしくはジャンプ系のトレーニング)で『力』に『速度』をかけた、『パワー』を発揮できるようになる。

といったものととらえてもOKです。

しかし、もう一歩踏み込んで理解すると

「スクワットやクリーン、ジャンプなど、様々な速度域でトレーニングを行い、色んな速度での力発揮をできるようになる」(自転車のイメージでいえば、上り坂でも、回転数が速くなる下り坂でも、しっかりとペダルを押せるようになる)といった解釈のほうが応用が利きます。

実はこの力ー速度関係をトレーニングに活かす方法も近年研究が進んでおり、例えばReyesら(2017)は、各選手の力ー速度関係がどうなっているかを調べた結果、

【大きな力発揮が苦手な選手】もいれば、【速い速度での力発揮が苦手な選手】がおり、それぞれの苦手なところにアプローチをすると、従来よりも大きなジャンプ力の向上が得られた、と報告しています。

実はこの力ー速度関係を測定するアプリもありまして、僕自身活用させてもらっており、おすすめです!(特に広告代等はもらっておりません。笑)


My Jump2⇒iPhoneのかたはこちら

やり方は単純で、必要な計測(脚長の測定など)を実施した後、異なる重量でのスクワットジャンプをするだけです。

まとめ

●パワー=力×速度

●F=maから考えると、力(F)が大きくなれば加速度(a)も大きくなり、速度も大きくなる

●しかし筋肉は大きな速度での大きな力発揮が苦手(力ー速度関係)

●パワートレーニングは、その大きな速度での力発揮を鍛えることが目的

●しかし大きな視点で考えると、パワートレーニングには『大きな力』×『小さな速度』~『小さな力』×『大きな速度』まで幅広くある

●苦手なパワー発揮を鍛えると効率的にジャンプ力が高まるといった研究もあり、自分の苦手なパワーはアプリでも測定可能

今回は少し踏み入った内容でした。

前回の記事と同じく、理解が深まるまで何度も読み直してみてください!

今回の内容はあくまでも『基本的なトレーニングをきちんと実施しており、ある程度の基礎筋力がある選手』向けのものです。

パラレルスクワットが、男子選手では最低でも体重×1.5、できれば×1.8倍、女子選手では最低でも体重×1.2、できれば×1.4倍を綺麗なフォームで挙上できないのであれば、傷害予防の観点からも、パフォーマンスアップの面からも、まずはそちらから中心に実施することがおススメです!

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)


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●実技セミナー《機能評価も兼ねた自重トレーニング》
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を開催します。

セミナーを行えるのは1年の中でも限られた時期になるので、是非ふるってご参加ください!

 

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参考文献

Jiménez-Reyes, P, Samozino, P, Brughelli, M, and Morin, JB. Effectiveness of an individualized training based on force-velocity profiling during jumping. Front Physiol 7: 1–13, 2017.

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