【第61回】アジリティの本質を理解する①段階的な習得

今回から数回に分けて「アジリティ」について書いていこうと思います。

書こう書こうと思いながらすっかり後回しになっていました。

というのも、普段このブログではトレーニング科学全般やスポーツ傷害のことなどについて幅広く書かせていただいているのですが、私の大学院時代の研究分野は「アジリティ」だったので。

そもそもアジリティとは?

アジリティとは「刺激に対して反応し、素早く方向・速度の転換を行う能力」(Sheppard and Young, 2006) などとスポーツ科学の世界では定義されています。

そしてそのアジリティを構成する要素は、以下の図ように示されています。

この図を見て分かるように

「アジリティ」は「知覚・意思決定要素」を含む「オープンスキル(いわゆる反応課題)」

「方向転換スピード」が知覚や・意思決定要素を含まない「クローズドスキル(いわゆる非反応課題)」

であるということです。

そのため、反応的(知覚・意思決定的)な要素を含まない切り返しのことをアジリティと呼んでいる人は間違いなんです。言葉の意味を分かっていないんです。
なんてどーーーーうでもいいこだわりは別に持っていません。笑

その人の中で言葉の意味がはっきりしていて、それがコーチや選手との間で共通認識できていれば、論文の中での言葉の定義と違ってたって何の不利益も被りません。

ただ競技中の方向転換動作というのは、知覚・意思決定的な能力によってそのパフォーマンスが左右されることも多いので、上記の図のように知覚・意思決定的な側面を考慮するということは重要になってきます。

アジリティといえば現場では知覚・意思決定要素を含まない方向転換のことを指す場合も多いですよね。

そこで本記事では、その違いを明確にするために
知覚・意思決定要素を含むアジリティのことを「反応アジリティ」と定義し
知覚・意思決定要素を含まない方向転換の能力のことを「方向転換スピード」と定義することとします。

反応アジリティの重要性

上記の論文の定義などは一般的には知られていなくても、反応アジリティが重要であることは現場でも認識されているのではないでしょうか?

実際、トレーニングの方法として反応課題を用いたものもたまに目にします。
(例)トレーナーが指を指した方向に素早く1歩動く、スプリントをする等

しかしながらそのようなトレーニングだけでは競技パフォーマンスの向上には不十分である可能性もあります。

なぜなら、競技レベルの高い選手と競技レベルの低い選手の能力を比較した研究において
・競技レベルの高い選手と低い選手で、矢印の方向へ反応する反応アジリティの能力には差がなかった
・一方で競技レベルの高い選手は、相手選手(画面に映し出された仮想の相手選手)に対する反応アジリティの能力は高かった
という報告もなされており (Young et al, 2011)
反応アジリティにおいては、競技に特異的な情報の処理能力が重要だと考えられているからです。

#13 Young et al, 2011

そのような競技特異的な反応アジリティを高めるためにはどのようにすれば良いのか。

お察しの皆さんも多いとは思いますが、一番は競技練習ですよね。

競技練習とは別にトレーニングを行うとしたら、まずは方向転換スピードを高めること。

そしてそのベースとなる下肢の筋機能や直線スピードの向上です。

一方で、指さしによる反応課題が全く無意味かというと、そうは思いません。

例えば、指を指された方向に向かってサイドステップやスプリントをする課題があったとします。(これは厳密にはアジリティではなくクイックネスに分類されますが)

このときに、あらかじめ進む方向が分かっていると図の左側のように荷重が一方に偏る可能性があります。

一方で、指さしの反応課題では、どちらの方向にも瞬時に反応するためには左右均等に荷重をしておく必要があります。(図右)

このように競技特異的でない反応課題の場合では、
「知覚・意思決定要素のトレーニング」というより、「反応をしやすい動作のトレーニング」になると考えられます。

このような動作の変化は、上に挙げた静止姿勢からの動作だけでなく、スプリント中のターン動作などにも同様に表れると考えられます。

まとめ

競技にとって重要なのは、指差し課題のような反応アジリティではなく、相手選手や周りの状況を読み取る「競技に特異的な反応アジリティ」です。

反応アジリティの向上の段階的アプローチとしては

①筋力トレーニングやスプリントトレーニングによる基礎的な筋力・スピードの向上
(ベース作り)

②方向転換スピードの向上
(ウエイトトレーニングでつけた基礎的な能力を水平方向の動作、減速、加速動作に転移する)

③指差しなどの反応課題を用いたトレーニング
(反応後に短い時間で素早く方向転換を行う動作を習得)

④競技練習で、競技に特異的な反応アジリティを習得

といった流れが良いのではないでしょうか。

選手によっては①と④を行うだけで、うまく獲得した筋力を競技に特異的な反応アジリティつなげることもできるでしょう。

一方でそこがうまくできない選手もいるので、その転移をサポートするために②と③が必要なことも多々あります。

しかしながら①基礎的な筋力の向上は②や③では決して代用できません

トレーニングに使える時間、今の選手の能力、習得の段階がどのステップにあるか、反応アジリティを高めていく場合はそれらを総合的に考えていきましょう!

アジリティシリーズ全④回
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参考文献

M. Sheppard and W. B. Young, “Agility Literature Review: Classifications, Training and Testing,” Journal of Sports Sciences, 24.9 (2006), 919–32 <https://doi.org/10.1080/02640410500457109>.

WARREN YOUNG and AND TARA HANDKE DAMIAN FARROW, DAVID PYNE, WILLIAM MCGREGOR, “VALIDITY AND RELIABILITY OF AGILITY TESTS IN JUNIOR AUSTRALIAN FOOTBALL PLAYERS,” Journal of Strength and Conditioning Research, 25.12 (2011), 3399–3403.

 

 

 

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