【第43回】抽象的な言葉の落とし穴

「言葉」というものは、すごく大事です。

人が他の動物と違い具体的に「思考」することができるのは、「言葉」があるからだと言われていますよね。

そして言葉には、「抽象的」なものと、「具体的」なものがあります。

この2つは状況に応じて使い分けをする必要があります。

抽象的な言葉と具体的な言葉の使い分け

具体的な言葉のほうが良い場合

例えば体育の授業中、ドリブルで「ボールが手についていない」生徒がいたとします。

教師が「ボールが手についてないぞ!」と言って直ればいいですが、これだとなかなか直りません。(運営者の経験上ですが)

例えば、「手についていない」原因が、力を入れて手が開き過ぎてることだとしたら
「手のひらをカチッと開きすぎた状態だと、手の真ん中しかボールに当たらないでしょ?ボールに合わせて少し手を丸めてごらん。そうするとボールと手全体、指がピタッとくっついてコントロールしやすいから」
と言うと直ることが多いです。

抽象的な言葉のほうが良い場合

野球やハンドボールのスローイン動作において、いわゆる「手投げ」になっている生徒。

理想はもう少し身体の捻りに腕が遅れてついてきて、しなやかに腕が振れているフォーム。

バイオメカニクス的に表現すると「骨盤の回旋、上部体幹の回旋、肩関節の水平屈曲等の動き、これらの速度のピークが丁度よいタイミングで遅れて発現し、各セグメントの速度が徐々に積み重なってボールの速度が最高になるような動作」だとします。

こんな具体的なこと言っても、たぶん良いフォームで投げられないですよね。。笑

この場合は、「腕をムチのようにしならせる」といった抽象的な言葉がけのほうが良いかもしれません。

言葉の選び方のポイント

まず、声掛けの前提としては、「その言葉がただの文句にならない」ということ。

言い換えれば、「できていない部分を指摘する場合は、その解決方法と必ずセットで提示すること」です。

例えば、「ボールが手についてないぞ!」はその生徒(選手)が解決方法を知っていれば「指導」「フィードバック」になりえますが、解決方法を知らなければただの「文句」です。

一方「腕をムチのようにしならせる」は同じく抽象的な表現ではありますが、そのイメージが解決方法にもなるのではないでしょうか。

ドリブルの例に関しても、同じ抽象的な表現にしても「手の力を抜いて吸盤のようにし、ボールに吸いつかせる」とかだと、うまくドリブルをできる生徒がでてくるかもしれませんね。

もちろん上記のことにはすべて個人差があります。ある生徒には「文句」になっても、ある生徒には「指導」になりえます。

私は体育教師(体育の授業のプロ)ではありますが、競技レベルの選手のコーチングのプロではないので、あまり具体的なコーチングに対して言及するとボロが出るのでこのへんで。。上記の表現にコーチ目線から誤りがありましたら是非教えてください。

トレーニングにおける言葉の重要性

さて、ここからが本題です。

一方で私はトレーニング指導のプロ「S&Cコーチ」でもあるのですが、体育の授業のようないわゆる「技術指導」に比べて、トレーニングにおいては、「抽象的な表現」よりも圧倒的に「具体的な表現」が重要になります。

個人的な意見になりますが、技術指導には「感性」、トレーニング指導には「根拠」が必要だからです。

抽象的すぎる言葉はトレーニングに向かないんです。

よくある抽象的な表現

①「あいつは全身の連動性がないんだよな。」

よく聞きますよね。

特に動作が不器用な選手に対して。

「連動性を高めるトレーニング」を1時間、「技術練習」を1時間行うのと、

「技術練習(もしくはその分解練習)」を2時間行うのとでは、

どちらのほうがその技術がうまくなるのでしょうか。

というかそもそも、「連動性を高めるトレーニング」とはどのように行うのでしょうか。「連動性」とは何なのでしょうか。
おそらく、特定のスキルごとにその「連動性」というものは異なるでしょう。一般的な「連動性」という能力はないのではないでしょうか。

②「神経系のトレーニングのためにラダーを行おう。」

ラダーを行えばラダーが上手になりますよね。

野球を行えば野球が上手くなります。

では、ラダーにだけ、その「神経系の機能向上」の効果があるのでしょうか。。?

そもそも「神経系の機能」とは何なのでしょうか。

筋肥大だけでなく神経系の機能の向上も、筋力アップに関与すること(Behm, 1995)は教科書レベルでの常識ですよね。(近年、このメカニズムについても議論がなされているようですが)

ラダーでそのような神経関連の機能が向上するという研究を私は読んだことがありません。

③「コーディネーションを鍛えるために、ディスク上でバランスを取りながら上肢のトレーニングに連結させよう。」

上記とほぼ同じような内容なので割愛します。。

具体的なターゲットの選定

上記のような言葉ってすごく抽象的だと思うんです。
抽象的だから、向上のさせかたも分からない。
向上したとしても、その成果が良く分からない。

そのため、トレーニングにおいては、具体的なターゲットを言葉にして明示することが重要です。

・筋肥大をさせる

・筋力を向上させる

・パワーを向上させる

・ジャンプ力を向上させる

・スピードを向上させる

・柔軟性を獲得する

・持久力をつける(VO2Maxを向上させる、Yo-Yoテストの距離を延ばす)

・正しい動作でスクワットができる(脊柱のアーチ、骨盤の適度な前傾、股関節の屈曲など)

上記の測定方法、向上のさせかた、向上していない場合何が原因なのか、、、プロのトレーニング指導者(S&Cコーチ)であれば、すべて言葉で具体的に説明できます。

もちろん、トレーニング動作中の「質」というのはものすごく大事ですが、その「質」も「具体的に言語化」できなければ、ただの「専門家っぽい指導」になってしまいます。

まとめ

抽象的すぎる言葉はトレーニング指導に向きません。技術指導に比べたら。

ただ、上記の体育の授業の例のように、「具体的な背景を理解したうえで、伝える方法は状況に応じて抽象的なものを選択する」というのはありだと思います。

「具体的に表現しない」ことではなく「具体的に表現できない」のが問題なんです。

具体的に表現できないということ=知識不足
ということではないでしょうか(自戒の念も込めて。。)

これは指導者ももちろん、選手にも言えることです。

今あなたが高めようとしている能力は具体的なものですか?

執筆者:佐々部孝紀(ささべこうき)

参考文献
Behm DG
Neuromuscular implications and applications of resistance training
Journal of Strength and Conditioning Research, 1995, 9:264-274

 

 

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【第43回】抽象的な言葉の落とし穴” に対して 8 件のコメントがあります

  1. KAZZILLA より:

    はじめまして。大阪のスポーツ施設でトレーナーをしております。コーチングについて検索する内にこの記事を見つけました。
    やはり言葉掛けは難しいですね。自分では伝えたつもりになっていても、相手に全く伝わってないという事を度々経験するので、自分の指導力の無さに落ち込みます。
    他の記事も専門的な話を分かりやすくまとめられており、いろいろと参考になりました。これからも勉強させて頂きます。

    ところで、記事の終りの方に
    【具体的に表現できないということ≠知識不足】
    とありますが、この≠は=もしくは≒の書き間違いではありませんか?敢えて≠としたのなら私の読解力不足でしょうか。

    1. sasabekouki より:

      コメントありがとうございます。

      言葉がけというものはいつになっても難しいですよね。
      個人的な経験ですが、物事を深く理解すればするほど、シンプルな表現で分かりやすく伝えられるようになるのかなという気がします。

      ご指摘いただいた部分は
      具体的に表現できないということ=知識不足
      ですね!
      ありがとうございます。

      1. KAZZILLA より:

        お返事ありがとうございます。

        やはり=で良かったんですね、ちょっと深読みしていました。
        物事は一度理解したつもりでも、更に深く理解しようとすると却って分からなくなる事が結構多いです。私のブログでも今「突然ですが質問です」という日記を載せていますので、よろしければ佐々部様にも何かご意見をいただければと思います。

        複数の日付に同タイトルで書いていますが、内容はほぼ同じです。

        1. sasabekouki より:

          ブログ拝見しました。
          なぜ膝の関節の負担を減らすために筋力が必要かということですね。

          まず着地の際の地面反力(GRF)が大きいと膝にかかる負担は大きくなります。

          そのGRFを減らすためには、股関節、膝をしっかりと屈曲したほうが良いというデータがあります。(Podoraza and White, 2010)
          また、股関節や膝を屈曲させて着地するには下肢の筋力が必要になってきます。

          た下肢の筋力が大きいほどGRFは小さくなるといったデータを見たこともありますので(すみません、この論文を軽く探してみたのですがどれか忘れてしまいました。。)、筋力をつけると関節の負担が減るというのはそのようなロジックから成り立つのではないでしょうか?

          Podoraza and Whiteの論文はこちらから
          http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0968016010000475

          1. KAZZILLA より:

            貴重なご意見ありがとうございました。

            筋力が大きいほどGRFは小さくなるというのは盲点でした。普段ダッシュやジャンプ力を考えているせいか、地面反力が大きい≒筋力が強いという先入観があったようです。この場合は着地の衝撃に対して筋肉がショックアブソーバの役割を果たしていると考えれば良いのでしょうか。

            だとすると、膝に痛みを抱えている人の筋トレとしては大腿四頭筋のエキセントリックな動作を強調した方が良いのでしょうか?

            腰や膝を痛めている人に水中ウォーキングが推奨される事に以前から疑問を持っていました。立ち上がるのも困難なレベルならともかく、自力で歩ける人にいつまでも水の中ばかり歩かせるのは逆効果ではないのか?それよりは、低い段差でも良いので踏み台昇降の様な運動を繰り返した方が効果的ではないのか?と思っているのですが。

          2. sasabekouki より:

            具体的な種目についてはここでは言及できないですね。
            「膝の痛み」というものが幅広いですし、その原因、症状も多岐に渡るので。

            例えば、左右での四頭筋の筋力差があればレッグエクステンションが有効かもしれませんが、痛みの原因が部分的な筋力よりも動きにあるのならCKCエクササイズが有効かもしれません。

            リスク管理と漸進的な負荷はセットで必要ですが、専門的な指導者がいない場合を考えると、漸進的な負荷を安全にかけていくことは難しいでしょう。
            そのため専門家が常に指導してくる環境にない人にとって、リスク管理に重きを置いた場合は水中ウォーキングは良い種目なのではないでしょうか?

  2. KAZZILLA より:

    何度もご助言いただきありがとうございました。
    普段からお客様の歩き方や体の使い方を見ていると動作改善まで介入したいところですが、現状リスク管理という面では難しいですね。出来る範囲で頑張りたいと思います。
    これからもお知恵を拝借する事があるかと思いますので、よろしくお願いします。

    1. sasabekouki より:

      トレーニング指導者やATだけではどうにもできないこともありますもんね。
      私も自分だけでどうにかできないときは別の専門家(理学療法士や鍼灸師など)に積極的に頼るようにしています。
      今後ともよろしくお願い致します。

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