【第37回】トータルコンディショニング

専門性【★★★】~【☆★★】

以前、「僕はメディカルってよりはコンディショニングをやりたいんですよね!」って学生トレーナーの子が言っているのを聞いて、「??」ってなったことがあります。

たぶん、その子が指してる「コンディショニング」は「ストレングス&コンディショニングコーチ(トレーニング指導者)」のことだと思います。

確かにトレーニングの量、強度のコントロールというのはコンディショニングの中で大きな役割を果たします。

ただ、「コンディショニング」に関連する要素は他にも多数存在するので、コンディショニングはS&Cだけの仕事ではありません。

 

そもそもコンディショニングとは?

「コンディショニング」とは、その文字の通り、「コンディション」を整えることです。

NSCAジャパンのHPでは、コンディショニングを以下のように定義しています。

「コンディショニング(Conditioning)とは、スポーツパフォーマンスを最大限に高めるために、筋力やパワーを向上させつつ、柔軟性、全身持久力など競技パフォーマンスに関連するすべての要素をトレーニングし、身体的な準備を整えること」

トレーニングの団体だけあって、たしかにこの文の前半だけ読むと「各体力要素を高めること=コンディショニング」と捉える人も出てくるかもしれません。

しかし、文末の「身体的な準備を整える」ことについては、トレーニング、各体力の向上以外にも多くの要素が絡んでくるので、様々な専門分野からの目線で考える必要があります。(関連記事:AT目線、S&C目線

 

トータルコンディショニング

前述した通り、「コンディショニング」というと、一般的にフィジカル的要素を整えることと捉える人もいるかもしれないので、ここではトレーニング等のフィジカル的要素以外も含めた総合的なコンディショニングのことを、トータルコンディショニングと呼ぶこととします。

トータルコンディショニングには、フィジカル的要素、メディカル的要素、メンタル的要素、栄養等が関わってきます。

前回のブログで述べた通り、コンディションは、プラスの要素マイナスの要素の影響を受けます。

そこで、それらの要素を以下の図のようにまとめてみました。

 

フィジカル的要素

まずフィジカル的な要素だけで考えても、プラスとマイナスの要素があります。

プラスの要素としては、各体力要素がどれくらいあるのか

マイナスの要素としては、どれくらい疲労が蓄積しているのか

この2つの足し算引き算で、フィジカル的なコンディションが決定します。

このことをフィットネスー疲労理論といいます。(こちらのブログで詳しく説明してあります)

このフィットネス(体力)と疲労のバランスは選手のコンディション(Preparedness)に大きな影響を与えるので、ストレングス&コンディショニングコーチはその名の通りコンディショニングに対しては大きな責任があります。

フィットネスと疲労はコンディションに対して大きな影響を及ぼすものの、以下に述べる各要素も絡んできてコンディションは決定するので、

フィットネスー疲労の調節を、狭義のコンディショニング
トータルコンディショニングを、広義のコンディショニング
とも呼べるでしょう

メンタル的要素

メンタルをコンディション(身体的な準備)に含めるかは微妙ですけど、試合当日のパフォーマンス(運動量等)には大きな影響を与えますよね。

また、集中力や気分に大きな影響を与える「睡眠」は、メンタル的な部分だけでなく、ホルモンバランスの乱れなどを通して身体的要素にも大きな影響を与えます。(過去記事

1日の睡眠不足だけでなく、数週間単位の睡眠不足の蓄積(=睡眠負債)がパフォーマンスに大きな影響を及ぼすので、試合前日の睡眠だけでなく普段からの睡眠時間がとても大切です。

栄養

多くのスポーツにおいて、グリコーゲン貯蔵量(体内の炭水化物、糖分の量)がパフォーマンスに大きな影響を及ぼすということはもはや常識ですよね。

それだけでなく、鉄分(ヘモグロビン)の不足は持久系パフォーマンスにとって非常にマイナスになりますし(Timo et  al, 2010)、運動中の脱水はパフォーマンスにネガティブな影響を及ぼします(FA Savoie et al, 2015)。

米をちゃんと食べるだけ、水分をちゃんと摂るだけでパフォーマンスが上がることは現場ではザラにあります。また意外と多いのが、1人暮らしの大学生アスリートの鉄分不足。

上記3つ以外にもパフォーマンスに影響を及ぼす栄養素はたくさんありますが、サプリメントに頼る前にこれらの栄養を含め、きちんとバランスよく3食(~5食)は食べましょう。

 

メディカル的要素

もうこれは言わずもがなだとは思いますが、怪我、病気をしてしまっては最高のコンディションにはもっていけません。

練習を離脱するほどの怪我をしていないとしても、身体の違和感・微妙な痛みを取り除くことでもコンディションは良くなります。

フィジカル的要素で上げた、「各関節のモビリティ・スタビリティの制限」の改善は、傷害由来のものの場合、メディカルスタッフ(理学療法士やAT等)の方が得意としている分野でもあると思うので、メディカル的要素に含めても良いかもしれません。

 

まとめ

トータルコンディションを高めるうえでは、チーム全体の協力が必要不可欠です。

S&Cが体力を高めつつ、トレーニング量は疲労を考慮して調整していく。

ドクター、ATは怪我や病気を最小限にとどめるようなアプローチをしていく。

栄養士の教育の元、選手自身が意識して食事を摂取する。

治療家がいれば、選手のケアをして疲労を取り除く。もちろん、選手自身のセルフケアや、十分な睡眠のうえで。

コーチは疲労を考慮して練習量を調整しつつ、選手の士気を高める働きかけを。

 

複数のスタッフ、選手の意思疎通ができて成り立つのがトータルコンディショニングです。

専門外への分野への口出し(治療家がトレーニングに、S&Cがリハビリに)は行き過ぎると良くないですが、他分野の知識の入口までは理解しておいたほうがいいのかもしれませんね。

 

 

H.Timo et al
Total Hemoglobin Mass, Iron Status, and Endurance Capacity in Elite Field Hockey Players.
Journal of Strength and Conditioning Research, 2010, 24(3):629-638

FA Savoie et al
Effect of Hypohydration on Muscle Endurance, Strength, Anaerobic Power and Capacity and Vertical Jumping Ability: A Meta-Analysis.
Sports Medicine, 2015

 

 

 

Follow me!

【第37回】トータルコンディショニング” に対して1件のコメントがあります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA